第9話 T.Kトーコ 花のOL
藤子(トーコ)たちがサンフランシスコから帰国して、少し日にちが経った頃から、オフィスに藤子(トーコ)と竜也の他に人がドンドン増えていった。たぶん、平常に戻ったと言うべきなのであろう。空席だった上司の机も、その他の課員の席も埋まってきた。
藤子(トーコ)と竜也を監視していた防犯カメラのような物は、相変わらず設置されたままではあるが、稼働させている気配はない。
毎日、定刻に来て、定刻に帰るOLも席に着いた。
今や藤子(トーコ)の周りには、
ついに、藤子(トーコ)にとって、花のOL生活が来た!とも思えた。しかし、お昼は、相変わらず藤子(トーコ)一人か竜也と近所の店に行くことに変わりはない。
サンフランシスコとか東京から帰った時など、町中のそれらの店から、ヤクザ者の帰還のように迎えられた。
「お嬢様、お勤め、ご苦労様でした!」
しばらくたって、藤子(トーコ)達は、自動翻訳システムを完成させた。サンフランシスコからパクッてきた資料を翻訳し、その資料を元に、新オペレーション・システム?をも作り終えたのだった。
それでも、藤子(トーコ)も、竜也も、相変わらずデータ入力、データベース作成の仕事が続く。二人に「またか!」という不満はない。藤子(トーコ)は、今は自分の予知能力の解析に忙しい。
竜也はというと、サンフランシスコで、自分のトランスポーテーションの能力の使い方が分かり、透視も出来ることも分かっていた。それで、特に自分の為の、能力の成功事例を溜め込むようなデータベース作りはしなくなった。
竜也は、透視は、藤子(トーコ)が
「危ないな!当たったらどうすんだよ!」
などと、竜也が言うもんなら、藤子(トーコ)は、
「当たるように狙ってんだヨ!避けんじゃねえ~」
となる。
周囲の誰も口を挟まない。日常の風景。
竜也にとって、自分の超能力の使い方は分かったので、データ入力の仕事等、もう無用な面倒くさいコトであり、ゴメンこうむりたいのである。しかし、仕事はそれぐらいしか出来ないので、楽ではある。
竜也は、仕事が有ることは、嬉しいこと、と悟った。
仕事をしている、仕事がヨク出来る、というフリが出来る。
もう、残業まではしない!定時で帰る!遊ぶ!と思うのだが、残業して自分の予知能力の成功事例のデータベースを作っている藤子(トーコ)に、藤子(トーコ)の本来の会社の業務である仕事をさせられている。
藤子(トーコ)を残しては帰れないのだ。藤子(トーコ)のバックにいる閻魔大王とか仁王のたぐいに、地獄行にされかねない。
藤子(トーコ)には次から次に、毎日毎日、仕事の指示がくる。それを、今は自分の
(予知の仕方が未だ解明されていない。早く予知の仕方を習得しなければ)
そう強く思う藤子(トーコ)であった。
藤子(トーコ)と、竜也。今も、データ入力、データベース作り、プログラミングをさせられているのだが、今回は、大型コンピュータのオペレーション・システムの作成ではなく、Dオペレーション・システムというものの製作らしい。二人には、前の仕事と、どう違うのかサッパリ分からないが、以前のものより、簡単に出来そうだった。それに、またパクリだ。
しかし、またである。英文の資料は全て整っていない。1~8巻あるはずが、2巻がない!重要なところと思える。今回は、以前造った翻訳システムが、未だ翻訳データベースの収集は続けているものの、使えそうな翻訳をしてくれてた。
なので残りの2巻があれば良い!8巻全て、その通りに作れば完璧に仕事は終わる。それから、制作が終わっても、終わらないふりをして好きなことが出来る。
藤子(トーコ)には、今回は欠損しているファイルは簡単に入手できる自信があった。竜也の透視と瞬間移動を使う。やらせる!そう、決めていた。
エフコム社は、アメリカのACM社が、小型のコンピュータを発表するらしい、と言う情報を入手していた。そこでエフコム社は、自社も、その開発を急ぐこととなった。そして、開発部隊から、藤子(トーコ)と竜也、この二人にプログラムデータの打ち込みを任せたい、との要望があったのだ。今度は、二人だけの様な事務所ではないので、自分勝手なことが出来ない。パクリにアメリカに行くこともない。
とにかく、藤子(トーコ)は、ひとつの物事を、集中して考えない。(真剣に考えない、ともいう)
ボ~ッとしながら、藤子(トーコ)は、留学生だと言ってココでアルバイトをしていたレイノルドのことを考えた。
(アイツ、仕事途中で、帰国しやがって!今、何してんだ?)
テレパスの能力で、藤子(トーコ)の思いは、レイノルドに通じてしまった。
レイノルドは、藤子(トーコ)に、自分はアメリカ、カリホルニアのスタンフォード大学の学生だと嘯いていたが、アメリカ、カリフォルニアのACM社開発本部にいた。机の上には、作りかけと思われる、小型コンピュータが、未だ最終形が整っていない状況で置いてある。
レイノルドは、モニターの画面を見ながらキーボードで文字を打ち込んでいる。机の脇には、全8巻のコントロール・プログラムと記載されたファイルが置いてある。
レイノルドは、藤子(トーコ)の思いに気が付いた。
「あれ?トーコさん?」
藤子(トーコ)は、慌てた。
「お!レイノルドくん、か?」
「はい、お久しぶりデスね」
「今、何やってんだ」
「今は、大学で友達のピーター・ギルバという奴と、コントロール・プログラムと言うのを作っています。トーコさんは?」
「リュウヤと又、前と同じようなプログラム、入力させられってるよ。Dオペレーション・システムとか言うんだって」
「エ⁉DOS(ドス)ですか?・・・・・・」
「バーカ!ドス(ヤクザとかが持つ短刀)じゃね~ヨ!ドスは作るもんじゃなく、持つもの!刺す物」
「エ???」
「 Dオペレーション・システム!」
「あ、、、、、、ハイ」
レイノルドは、チラリと机の脇に置いてあるファイルが全巻あることを確認する。
「じゃ~な」
との藤子(トーコ)の言葉で、テレパスの日本とアメリカでの会話は終わった。
レイノルドは、このことを急いで、上司に報告するために席を立った。
(エフコム電気が、今度は小型コンピュータ用のオペレーション・システムをパクる気だ)
藤子(トーコ)は、竜也に、
「Dオペレーション・システムの開発に関する全8巻のプログラムファイルを透視で見つけ出し、直ぐにその内の2巻をこちらに飛ばして、速攻でコピーして、元に戻すように!」と命じた。それに付け加えて、
「間違っても、女子更衣室なんか、覗くんじゃないぞ!時間ねぇ~んだから」
と、凄まじい睨みに加え、圧をかけた。
竜也は、「ハイ」とも声が出ず、震えるように何度も頷くのだった。
竜也は、藤子(トーコ)と自分の机に置いてあるファイルが一つも抜けておらず全8巻が並んでいる所をイメージした。実際にそれがレイノルドの机の上とは知らない。そして、2巻だけを自分の手にある状態をイメージして、ファイルを自分の手元に飛ばした。レイノルドの机の脇に置いてある全8巻のファイルのうち、2巻だけがグラグラ揺らいだと思った次の瞬間、そのファイルは突然、消えた。そして、数分後、レイノルドが席に戻る前に、元の場所に戻っていたのである。
2巻、入手完了!
竜也は、すぐさま、近くにいたOLに、直ぐにコピーを取るよう命じた。それから、コピーし終わったところで、直ぐに元の所であろう場所へファイルを戻しておいたのだ。
竜也は、藤子(トーコ)の命令に対しては、実に手際が良い。
命がけ、なのだ。
レイノルドは、ACM社の自席に戻って来て、深々とイスに座り一息ついた。
そして、キーボードで何文字か打ち込みを始め、最後に強くエンターキーを推した。その結果をディスプレイで確認し、机に置いてある8番目(最終)のファイルの最後のページを開き、チェックを入れ、自分の名をサインした。何かの作業の完了である。
その後、直ぐに机の隅に置いてあるカセットテープレコーダのヘッドホンをかけ、音楽を流した。自分の思考が、藤子(トーコ)に読まれないように。
そこで、レイノルドは、深いため息をついた。
先ほどの、上司との打合せを思い出し、また、深いため息をつくのだった。
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