第7話 T.Kトーコ スパイの帰国
藤子は、(ありがとさん。じゃーね)と、言葉を竜也の頭の中に送ってサンフランシスコ空港から日本に帰った。
竜也は、
「何でも出来る人はイイよなあ~、それでこれから俺はどうなるのよ⁉」
と、留置場の中で呟くのだった。こちら警察署内は大騒ぎだ。なんせ、囚人の一人、藤子が突然、消えてしまったのだから。
「まあいい、お前一人でも逮捕してやる。尋問の時間ですが、用意はよろしいですか?」変な日本語を使って、ギャレットが竜也に、自分に付いて来るよう促す。
竜也は、自分が、どんな
ギャレットが、竜也を部屋?から連れ出した。
これから取調室に連れて行くらしい。
竜也は、サンフランシスコの、警察署の、取調室に連れて来られた。
白い壁の四角い部屋で、部屋の壁の一つの面に、大きな鏡がある。テレビドラマでよく見るマジックミラーだろう。鏡の裏の部屋では、誰かがコチラを見ているのだろう。そして、天井の隅にカメラがある。取り調べは、録画される。
部屋の真ん中に置かれた、四角い机を挟んで、竜也は、ギャレットと対面するように座らされた。
ギャレットは、調書のような物と、ボイスレコーダを持っていた。
そして、竜也に向って、少し意外な程の小さな声で話始める。
「これから、ACMコンピュータ著作物、盗難、産業スパイ事件の取り調べを始めます」
小さな声なのは、間違えず難しい日本語を喋らなければならないから?
と、ここまで、しゃべって、ギャレットは、書類とボイスレコーダを机の上に置いたまま席を外した。
たぶんではあるが、鏡の後ろの部屋にいる人に、取り調べの進め方を確認しに行ったのだろう。
その時、
(広島ついたぞ~!お前も早くこ~い)
と、藤子の声。竜也の頭の中でコダマする。
(エッ⁉俺、自分とか、生身の瞬間移動なんて、藤子さんダケしかやったことないですけど‥‥そんな危ないこと、怖くて自分には出来ません)
と、考える。
また、藤子の声がする。
(なんだと~!危ない?そんな事、私にしたのか⁉)
(チョッと、話しがしたいから、サッサと広島空港に来い‼)
竜也は、ココの、取調室で、これから怖い目に会うより、藤子の方に恐怖を感じていた。
自分をイメージする。自分のトランクをイメージする。それから、広島空港の、到着ロビー外をイメージする。
広島空港の到着ロビー外に、荷物を持った自分を強くイメージした。
次の瞬間、南郷竜也は、自分のトランクを持って、広島空港にいた。
瞬間移動!
成功?
次の瞬間、竜也の顔面に、藤子のパンチが飛んできた。
「お帰りなさい」
と、やさしく?藤子が迎えてくれた。
竜也は、片手で右頬を撫でながら、頬が腫れていないか?歯が折れてないか?を確認しながら、車を止めておいた空港の駐車場に向かう。
(俺より、無事で何より)
と安堵して、運転席に乗り込み、車を走らせた。
もちろん、藤子の元に。
「ねえ、私の荷物、私の部屋に届けてくれない?」
と、藤子。
「無理です!藤子さんの部屋を、イメージ出来ない」
と、竜也。そう、竜也の瞬間移動能力は、移動場所もイメージ出来なくてはならない。本当は透視の応用で可能だが、イメージしたくなかった。
「白い、可愛らしい女の子らしい部屋ダヨ。ベッドも、机も白色。まあ、特徴としては、東の壁に神棚があって、その下に、脇差が飾ってある。護身用に。それと、父が、飾った手榴弾と短銃、それ位かな?」
と、藤子が言う。竜也は、ソレを想像できなかった。したくなかった。
(充分、特徴的な部屋ではあるが、想像も出来ないし、したくもナイ!)
と、思った次の瞬間、
「殺すぞ」と、藤子の呟き声がした。
竜也は、自分の荷物を自分の部屋に瞬間移動させて、藤子の荷物を車に乗せ、、倉田家に藤子を送ってゆく。
倉田家の門の前につくと、黒服のお付きの人々が、急いで門を開け、藤子たちを迎え入れた。
竜也は、家の入口の前に迎えに出ていた若頭?リーダー?出発時にドルを一杯くれた方に挨拶し、余ったドルを返そうと差し出す。
しかし、それは、受け取られなかった。
「余ったんですか?どうぞ、そのまま、お持ち帰り下さい」
と言われ、
「お疲れさんデシタ」と、早く帰るよう促されたのだった。
竜也は、
「藤子さん、お疲れ様でした。明日は休んでいい筈ですよ。また、会社で!」
と、藤子に手をあげて挨拶をし、車に戻り、自分の家に向かって走らせた。
(何かの弾みで殺されないうちに、早く家に帰ろう‥‥)
と思うが、思いは、直ぐに消す。藤子に、思いを詠まれると本当に殺される。ここでは!
「南郷くん、本当に有り難う!」
竜也には、そう言う藤子の声が聞こえた気がしので、取り敢えず片手をあげて、返事をしておいた。
竜也は、自宅近くの駐車場に車を止め、自宅の2階の部屋に戻った。両親には、軽く 挨拶をし、土産など買う暇がなかったことを詫びた。そして、ベッドにダイブ!飛び込むように倒れ込む。
「あ~、疲れた。やっぱ、家がイイや!」
と言って、自分の机の横に飾ってある、写真を眺めた。
L版の海の見える砂浜に、2人で写っている。一人は、自分、、そしてもう一人は自分の憧れの少年、瀬戸内サーファー、香川崇。
竜也にとって、香川崇は、憧れの存在。いつも流行の最先端をいっていた。ケンカを直ぐに売られてしまう自分を、毎回、助けてくれた。竜也にとってのヒーローだ。
竜也は、この写真をみると心が落ち着く。
(そういえば、この写真を撮ってくれた女の子は、今、どうしているのだろう?)
と、何気に思うのであった。
(いつも香川崇くんと、一緒にいたような、そして、突然いなくなった‥‥)
それと、何故か、何時も、コノ詩が口をついて出てくるのだ。
「大波、小波、あ~した天気にしておくれ」
(タカシくんは、今、何処で何をしているのだろうか?たしか、齢は、僕の方が上だった気がする)
等と考えるうちに、深い眠りにつく竜也であった。
翌々日、竜也は、出社する前に、例の資料を瞬間移動で、会社に送ってしまおうか?とも考えたが、送り先が決められない。突然、会社の何処かにトランクなど現れたら大騒ぎになるだろう。
それで、資料の入ったトランクを手持ちで出社することにした。まだ、中を隅々までは見ていない。
竜也は、会社ロビーのエレベータ前で、藤子と会ったので、一緒に仕事部屋に向かうことになった。部屋に入ると、黒人留学生のレイノルドが、死神にでも会ったかの様に、目を大きく見開いて驚いている。
レイノルドは、慌てて竜也と藤子に、
「お帰りなさい。お疲れ様です」
と、挨拶をする。
竜也は、レイノルドにトランクを渡し、「この中に、受け取ったファイルが有る。ファイルを取り出して、その資料を読んで、分からない技術用語が在れば、マーカーと付箋で分かる様に、しといてくれる?」
と、指示をした。それから竜也は、ビルの別の階に居る上司に、帰国の挨拶をする為に、部屋を出た。
レイノルドは、竜也が居なくなると、トランクから資料を引き出し、読み漁っり始めた。
藤子は、そのレイノルドを、ジっと睨みつけていた、観察しているかのようだ。
レイノルドは、
(どうして、無事に手に入れたのだ?)
と考えたところで、藤子の視線に気付いて、思考を一旦、停止した。
今、藤子に、自分がアメリカのコンピュータ会社、ACMから派遣されたスパイだ、と感付かれてはマズイのだ。まだ、此処で、やらなければならない事がある。
レイノルドは、竜也に言われた通り資料の翻訳の手伝いを行い始める。
藤子の、睨みつける様な視線は収まった。いつもの、ボ~っと天井を見つめる視線に戻っていた。
レイノルドは、アメリカのACMでの自分のボスである、堂前あや子に、FAXで連絡をした。
(資料はこちらに揃っている。自分は、次に何をすれば良いのか?)
それを聞きたかったのである。
この話の、昭和の後半期では、インターネットとか、メールとかが、まだ無い。レイノルドは、家に帰り、自室に用意されているFAXを使う。
レイノルドに、アメリカ、ACMの堂前あや子から、指示命令のFAXが届いた。
(そのまま、周りに気付かれないよう、そちらエフコム電気社の、ACMのコピーマシン製作の進捗状況を知らせるように)
とのことだった。
ACMは、エフコム電気社がACMのコンパチブルなコピーマシンを発表し、販売を開始した時点で、日本でも、アメリカでも、国際的な産業スパイ事件として国家的に動く、とのことである。そして彼は、その時期に、アメリカに帰国するように、との事だ。
竜也と藤子が、アメリカ、サンフランシスコから帰国後、1か月あまりで、二人が直ぐに翻訳マシンを創り上げ、技術資料を翻訳した成果で、ACMコンパチブルマシンのオペレーション・システムは完成した。
完全なる国産の最新鋭機種が、登場したのである。
ACMの価格の半額になる低価格システムは、世界各国からオーダーが、エフコム電気社に入り始めた。
アメリカにおいても、ACMの最新鋭コンピュータのコンパチブル機として、各方面に導入が決定されるに至った。
その時分に、エフコム電気サンフランシスコ支社の技術者2名が、産業スパイとして、FBIに逮捕されてしまう。アメリカで、ACMのコンピュータ著作物の盗難、盗用、産業スパイ事件の裁判が始まったのだ。
日本のエフコム本社からは、多くの責任者が渡米した。
窃盗、著作権法違反、業務妨害、数多くの訴訟がACM側弁護団から、なされたのだ。世界中に、大々的見せしめ、警告、としてスケープゴートにされたのだった。それは、世界的な、国家対国家的裁判となる様相を見せて来たのである。
サンフランシスコの法廷での、この産業スパイ事件は、電子技術先進国だけでなく、生産製造請負国まで、国際社会に注目された。アメリカACMとFBI、エフコム電気と、その弁護団が対峙し、陪審員席には、如何にもアメリカの半導体、情報機器、電子機器製造会社のトップとみられる顔が並んでいた。
エフコム側からは、呉広町の、広島支店と東京の開発本部でのシステム開発作業のビデオ録画も提出された。
呉広町の広島支店では、社員2名、アルバイト1名が開発作業を毎日しており、その他には、誰も居ないところでの開発であり、他からの情報提供、指示によるコピー作業等は無い、と主張された。
エフコムの開発部門からも、外部からも、機密漏洩情報など、入る余地のない状況、その様な状況下での作業である証拠、として録画映像は提出されたのだった。ここで、日本側、エフコム側、の有利で裁判は終わるか、に思われた。そこでACM側からは、盗作の証拠として、ある映像ビデオが提出、放映された。エフコムの最新鋭コンピュータを、操作している映像であった。オペレーターが、あるコマンド(命令文)を入力する。そうすると、エフコムの最新鋭コンピュータ本体から警報が鳴り始めた。また、コンピュータのプリンターが、、「ACM」という文字を次々と打ち出したのである。
完全なるコピーの証(あかし)として。隠しプログラムが、仕込まれていたのだ。
日本の、エフコム側は、騒然となった。
「この、映像は、フェイクだ!」
と、訴えてはみたものの、ACM側からは、
「そちらの開発映像だって造られた物ではないのか⁉」
と、野次の応酬となる。
ACMのオペレーション・システムに隠しコマンドがあったのだ。エフコムは、誰も気づけなかった。
イイエ!
藤子は、以前、この現象が起こることは知っていた。ペレーション・システムのバグ潰しの作業の際に、
(ただの、誰かの暇つぶしのイタズラで、自分には関係ない)
と、潰す作業はしなかったのだ。藤子にとっては、どうでもよく、面倒くさいダケで、
(誰かの暇つぶしに、付き合わされるのはゴメンダ‼)
と思っていたのだ。
これを、エフコムの最新ACMコンパチブルコンピュータは、ACMのコンピュータの盗作であるとの決定的証拠とされ、エフコム側は、多額の著作権料、賠償金をACM側に支払うことになったのだ。
その後、司法取引の末に、示談に持ち込み、サンフランシスコ支社の2人の釈放を成し遂げた。しかし、このシステムを販売する度に、エフコムは、多額のロイアリティーを、ACMに支払う事になったのだ。
こんなコトには、藤子も竜也も我関せず、である。
もう、自分達の超能力の使い方は分かって来ていたので、データ入力の仕事等、もう無用な面倒くさい仕事は、ゴメン御免こうむりたいのだ。
その前に、レイノルドは、エフコム広島支店でのバイトを止め、支店には来ていない。それも、藤子達にはどうでもよく、思えていた。
ただ、藤子には、同じテレパスの能力者として、彼は、藤子の敵になるのではないか?などの予知めいた予感はある。
(そうだ!予知の仕方の方が、未だ解明されていない。ここを止める訳には、いかない)
そう強く思う藤子であった。
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