第6話 T.Kトーコ 能力解放

 藤子と竜也は、エフコム電気のサンフランシスコ支社ビルの会議室に居た。

 二人は空港で資料を受け取って帰るだけのハズであった。

 レイノルドは、そう言った。しかし、南郷竜也は、せっかくサンフランシスコに行けるのだからと、とんぼ帰りの受け渡し予定を、2泊に変更したのだ。

 今、このサンフランシスコ支社での、ファイルの受け渡しは、おとり捜査の気配がしてきたのである。

 用意された資料で必要な物は、竜也が、トランクに詰め込んだ。

(とすると、後は逮捕されるだけ?)

 竜也は、藤子が、竜也自身の心の声を聞いていることに、気づいている。

(ここはもう、逃げるか?)

 竜也は、藤子の顔をうかがった。

 藤子は軽く、誰にも分からない様に、頷いたように見えた。

 竜也は、

(この場は、どうしようか?)

と考えてみたが、なんの天の声も聞こえない。正確には、藤子の指示命令であるが。

 竜也は、判断に困って、思案顔で藤子を見る。藤子は、

(この場合は、どうしたら良いものか?)、名案は無いし、決断は出来ない、超能力の予知も出来ず、困った顔をしている。そこで竜也は、

「取り敢えず」

と、ボビーに向かって言った。

「ソーリー、全部入らないので、もう一つトランクを買って、また、明日、参ります」

と言って、席を立って退室しよした、その瞬間である。ボビーとギャレットの右手が、それぞれのジャケットスーツの左と右の両懐に入ったのだ。それは、拳銃を取り出すかの様だった。

 次の瞬間、藤子が竜也の手を引き、両方の悪い足で、飛び跳ねる様にして走りだした。二人は、退室しエレベータホールに向かう。直ぐに、竜也が藤子を抱きかかえて、走しり出す。

 藤子は、右手の小銃を追手に一発かましていた。威嚇射撃。

 竜也は、藤子が、拳銃の扱いに慣れていることに、驚きもしない。

 後ろで、ストップ‼とか止まれとか騒がしい。そして、銃声が3発鳴り響いた。

 竜也は、後ろを振り返る。

 廊下に、足を撃たれたのか、倒れたボビーとギャレット、二人の姿があった。そして、その後ろに膝から崩れ落ちる、右手に銃を持った あや子。

 あや子が、ボビーと、ギャレットの足を撃ち、彼らの、どちらかが、あや子を撃ったのだろう。

 竜也と藤子は、急ぎ、このビルを出た。

 竜也は、足の悪い藤子を抱きかかえる様にして走る。そして、ビルの前でタクシーを捕まえ、ホテルに急がせた。

 タクシーを降り、フロントで自分の部屋のキーを受け取った二人は、今度は部屋に急いだ。

(すぐに出よう!)

 竜也は藤子に念じてみる。藤子は、頷き、

(分かった!)

と、竜也にテレパシーで返した。

 竜也は、部屋に入るなり、直ぐにクローゼットの中を確認する。ここに、例のファイルが無ければ何にもならない。

 ファイルは有った!

 ファイルは、どこからか飛んで来た、と言う様に、ぐっちゃぐちゃに、クローゼットの中に飛び散っている。

 竜也は、用意していた、もうひとつのトランクに、急いで、そのファイルを詰め込み、それから、スーツもトランクの中に脱ぎ捨ぬぎ棄てて、動き易いソフトジーンズとポロシャツに着替え、取り敢えず、その辺の、自分の物を無作為にボストンバックに詰め込んで部屋を飛び出す。

 部屋の有るフロアのエレベータを、イライラと待っている間に、藤子が部屋からエレベータホールに、やって来た。

(荷物多い!ちゅーの)

 藤子は、どんな状況でもブレない人なのだ。


 二人揃ってエレベータに乗り込み、ロビーに出て、チェックアウトの手続きもしないまま、100ドル札とキーをフロントに投げ渡した。

 ホテルを出て、二人は目の前のイエローキャブに飛び乗る。

そして、ドアを素早く閉めて

「空港まで!」

と、二人一緒にドライバーに指示をした。

 ドライバーは二人を交互にながめニコニコして、車を急発進させた。

 竜也は、

(サンフランシスコ空港に、無事に着けるのだろうか?)

と、心配顔である。

 ホテルを出発して、少したってから、藤子は、後部座席から、このタクシーの後ろの方ばかりを気にし始めている。

 そこでまた、竜也に神のお告げが来た!

(誰か、追ってくる!)

 竜也は、藤子を見る。その竜也を見て、藤子は頷く。藤子には恐怖などのないようだ。平常心の表情の様に、竜也には見えた。

 そんな時、タクシーのドライバーが、

「ヘイ、ガイ!」

と、竜也に話しかけてきた。

「お前たち追われているのか?」

と、竜也と藤子をチラリ見た後に、顔で車の後方を差して、

「ずーと後ろの方に、覆面パトカーがいる。あいつが、この車の真後ろに来たら、いくら俺でも止まらない訳わけには、いかないよ」

そう、呟いた。

 竜也は、100ドル札を10枚ドライバーに何も言わずに渡した。ドライバーは、快く竜也から、その金を受け取り、スピードを上げていく。吐きそうになる位、右に左に蛇行を繰り返し、前の車を次々に抜き去り、かなり後ろに付いていた覆面パトカーは、見えなくなってしまったのだ。

吐く寸前のところで、二人の乗った車、タクシーは、目的地であるサンフランシスコ空港の出発ロビー前に到着してくれた。

「サンキュウー」

 竜也はドライバーに言って、料金を渡し、タクシーのトランクから、荷物を取り出し、空港内、出発ロビーに急いだ。

 藤子が先頭である。竜也としては付いて行くしかない。竜也の所持金と力では、到底、何処にも行けないことは分かっている。

 竜也は、考えた。

(瞬間移動、トランスポーテーション、試ためしてみるか?)

 竜也は、えらい失敗をしそうで、ヤメタ。

 超能力などに頼るより、現実的な物凄い力を持った、藤子に任まかせるのが一番良いのである。超能力など、到底かなわない。藤子のコネと、財力と、攻撃力と度胸。

 その時!黒いキャデラックが、二人の前に急停止した。中からは、ボビーとギャレットが、足を引きずりながら、銃を構えて、出て来たのだ。二人の銃口は、各々、竜也と藤子の二人に向けられている。

(万事休す、バンジージャンプ⁉)

と、竜也が思った瞬間、藤子が馬鹿にした顔で竜也の顔を見ていた。

 二人は両手を頭の上に挙げる。

 ホールドアップ。

(こんな感じでよいのだろうか?)

 竜也には、よく分からない。

(とにかく、参った、ギブアップの意思を伝えなくてはならない)

と、思った。

 藤子にいたっては、二人を睨みつけているのだ。

(それは、やばいですよ‥‥藤子さん‥‥)

 二人は、ボビーとギャレットに銃口を突き付けられたまま、荒々しく、黒塗りのキャデラックに放り込まれた。

 竜也は、

(藤子さんは、泣き叫ぶのだろうか?)

と、思いきや、慣なれている?と見えた。

 竜也は、色々な考えを巡らせる。

(黒塗りの車に、銃口を突き付けられ、放り込まれることに、慣れている?何それ)

 藤子は、平然、毅然とした態度だ。

(やはり、藤子さんは、普通のお嬢様ではない。けっして)

と、感心している竜也なのだった。

 竜也と、藤子は後部座席に、そして荷物、スーツケースは黒塗りの車のトランクに放り込まれた。

(スーツケースと同じ、そっちの扱いじゃなくて良かった‥‥)

と、竜也は思った。

 車に乗せされて、開口一番、藤子が、ボビーたちに聞いた。

「あや子さんは?」

(そうだ、最後に見たあや子さんは、フロアに崩れ落ちていた)のを竜也は思い出した。

 助手席にいた、ギャレットは、

「直ぐに、病院に担ぎ込んださ、命に別状はない。しかし、俺たちを撃つとはね!」

と、ボビーは、あきれ顔で言い放つ。

「あいつが仕組んだ逮捕劇なのに,なんで、俺らを撃ちやがるんだ?」

(彼女が、仕組んだ?)

と、竜也は驚いた。

 その時、警察署と思わしきビルの前で車は止まった。

 竜也と、藤子の二人は、ボビーに、降りるようにかされ、ビルの中に案内された。連行され、別々に二人は、鉄格子の部屋に入れられた。もちろん、荷物は没収されている。

(俺たち、どうなんのかな?)

 竜也はボーッと、漠然と考えていた。

(金は、なんぼでも有ったのになあ~、 金髪のお姉ちゃんとか、一晩でも抱こうかな、とか予定していたのに)

と、悔い、思っていたところ、そこにまた、竜也の頭の中に、神の声が聞こえた。

(バカなこと、考えてんじゃねーよ!)

そして、畳みかけるように、

(さっさと、ファイルを、どこかに移せ!)

藤子の声だ。

(テレパスの能力か、なんで、この人ばかり色んな力、持ってんのよ‥‥)

と、竜也が、考えていた時、

(バカヤロー、ドオでも良い事、考えてんじゃねえ!さっさと、しろ!)

と、また天の声。今度は、ガンガン頭に響くのだ。どうやって、声のトーンを変えているのだろうか?と、竜也は考える。今のは、地獄からの声とも言える響きだ。

 竜也は、また、藤子に頭の中を読まれているはずと確信して、

(考えてないで、早いとこ、ファイルを、何処かに移動させておこう)

と、思うのであった。


 竜也は、成功条件だけを集めてデータベースを作ってみた。薄々分かって来ていた。透視と瞬間移動の能力の、実行方法は、なんとなく分かって来ていた。

(ファイルの入ったスーツケースのことを考える)

(藤子のことを考える。そして、移動、念じる!)

 そこで、神の声が竜也の頭の中で響いた。

(この野郎!ファイルのケースが、私の所に来たじゃないか)

 藤子の声だ。

 一応、ファイルの入ったトランクの移動、成功。

 次は、

(藤子のことを考える)

(サンフランシスコの空港で、タクシーを降りた場所を思い浮かべる。移動と、念じる。念じる)

また、神の声だ。

(空港に着いたぞー、て、手ぶらでどうすんだヨ)

一応、藤子の移動、成功。

 次に、

(先ほどの、ファイルの入ったトランクを思い浮かべる、空港にいる藤子、念じる)

神の声。

(バカヤロー、こんなもんで、飛行機のチケットが買えるか⁉私の荷物をよこせ!)

とか言われても、藤子のメインのスーツケース?どんなんだっけ。よく覚えてない。

 竜也は、藤子の荷物に視線を向けると、それを持たされそうだったので、アマリ、見ていない、見ない様にしていた、だから覚えていない。かなり重そうだったことは、実は覚えている。

そこで、また、神の声。

(バカヤロー、淡いピンク色の最新サムソナイト、貝殻の形!)

 竜也は何となく思い出した。

(そうだ、そうだ。あの貝殻の形をした最新型のスーツケースだ)

 竜也は、今一度、空港に藤子のいる風景を思い描いて、念じる。

そこで、神の声。

(ありがとさん。じゃーね)って俺は、これからどうなるのよ。


 竜也が取り残された、こちら警察署内は大騒ぎだ。なんせ、囚人が一人、突然消えてしまったのだから。

 青い顔をして、ギャレットが、竜也の所に、やって来た。

「竜也、オマエ、藤子、何処行ったか?知らないか?いなくなった」

 竜也は、首を横にふる。

「まあイイ、お前一人でも逮捕してやる。尋問の時間ですが、用意は宜しいですか?」

変な日本語使う。

 竜也には何の罪で、尋問じんもんされるのか?良く分かっていない。

(もしかして、例のおとり捜査?)

(とすると、ソフトウェア著作権法違反?そんなの、直ぐに、会社が此処から出してくれるは!だって、会社のお仕事で来てるのよ。俺⁉)

とか思っているうちに、ギャレットが竜也を迎えに来た。これから取り調べ室へ連れて行かれるらしい。

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