第5話 罠? 逃げるか
竜也は、ゾウさん・クジラさんのネクタイから、藤子から渡された、奴隷用?使用人用とも思える、赤いシルクのネクタイに取り換え、締め直した。
ホテルを出たところに、先ほど、空港から利用したリムジンタクシーが待っていた。
あや子によると、このタクシーは、日本から、エフコム本社の社長が来ても、手配しない高級クラスの物らしい。
社長や支社長が、重要顧客を迎える時のみ手配するらしいのだ。あや子は、サンフランシスコ支店から、藤子用に、この特別車両を手配するよう言われたようだ。
藤子は、運転手がリムジンの扉を開けるのを待って、中に入った。続いて、あや子も、運転手にエスコートされるようにリムジンに乗り込む。
竜也は、勝手に二人に続いてリムジンに乗り込んだ。
リムジンの車内には、冷えたシャンパンが用意されていた⁉
三人が一杯飲みほしたところで、リムジンは止まった。海辺の海鮮レストランらしき店の前である。
ベルボーイとも、ボーイとも、区別がつかない人達が車の外側に並んだ。そこで、竜也は、リムジンの運転手に、今度は100ドル札を1枚渡した。藤子の父親から貰ったものだ。正確には、倉田一家の、お付きの人からである。いくらでもある。
竜也は、藤子の父親から貰ったものだが、今、自由に、好き勝手に使える大金を手にしている。自分は、決してセコイ、ケチではない!と思っている。というよりも、竜也は、全く、お金には頓着がない。今は、藤子のおかげもあって、気持ちは大金持ちである。
竜也は、人のホホを金でひっぱたいて、自分の優位的立場を、ひけらかし、自己満足するなどしない、する気もないのだ。そんな下賤な金持ちのお坊ちゃまな育ちではない。
竜也は、車を降りて、目の前に、並んでいる人々に、チップを満ベンなく配る。
配る、配る。
そんな竜也には、藤子は、どう見えているのか?竜也いわく、
(後ろに、仁王様と、閻魔大王を控えた、戦う観音様にしか見えない‼)
三人は、レストランのボーイの案内されて店内の席についた。
三人に出てきたのは、ワインリストだけ、である。
藤子が、リストからボーイにワインを指示したところから、巨大生物か?とも思える海鮮が、煮たり、焼いたり、揚げたりされて、次から次に、出されてくるのであった。あや子は、それを見ながら不安そうな顔で、竜也を見る。
先ほど、竜也が運転手に100ドル渡した段階で、あや子は、竜也のことを今は、藤子のサイフ係だ、と思ったらしい。
こんな状況に慣れている竜也は、
(大丈夫!)
と、あや子に、目で合図した。
あや子は、少し安心し笑顔の表情に戻ったのだが、出てくる料理を見ては、」まだ、お口がポッカ~ンと、開いたままだ。
翌日、朝、あや子は、ホテルに、二人を普通に迎えに来た。普通にイエローキャブ1台で、エフコム電気のサンフランシスコ支社に向かった。
竜也は、その日の朝、普通にホテルでの朝食は、1階にあるレストランのバイキング方式で採ったのであるが、結局、要領の分らない藤子のために、ホテルのレストランのボーイと化し、朝食を藤子の前に並べなければならなかった。
竜也は、
「お飲み物は、コーヒーと紅茶、どちらになさいますか?」
と、冗談めかしく藤子に問いかけたのだが、
「じゃ、コーヒー」
と、藤子に普通に返された⁉
エフコム電気のサンフランシスコ支社の入っている巨大なビルに着くなり、二人は最上階の会議室に案内された。部屋の内の大きな机の上には、8巻のファイルが置いてある。
竜也は、どうにも、部屋の隅の防犯カメラらしい物が気になっている。地元のオフィスでは、全く気にした事はないのだが。
(誰かが動かしている?)
(自動の動きではない。定点でもない)
(この部屋では、いつもの事なのか?)
竜也は、自分の秘めた力、瞬間移動の実行方法を研究している間に、自分には、少しだけ、物を、遠隔操作のように動かせる能力が有ることを知った。それを、今、使う。
(カメラ、少し右むけ)
カメラは、右に向いた。これで、竜也たちは映らない。だが、カメラは、また、向きを元に変える。
(やはり、誰かが操作している?)
先ほどから、藤子がジーッと竜也の顔を、というより、目を見つめている。
何かを訴えているようにも見える。
藤子は、予知能力と、人の心の声が聞こえる、というテレパス能力で、このファイルの受け渡しが、自分達には危険なものであると思えていたのだ。
それを竜也に伝えたかったが、ここでは言葉などで伝えるすべがない。竜也に、テレパスの能力で念を送るしかないと思った。
藤子は、空港で、日本人女子大生からファイルを受け取るなど、無理がある⁉有り得ないコトと、思っていたのだ。それに空港に現れたのは、とても、チャライ日本人お嬢様ではない。それに、この女性は、藤子の我ままな願いを、全て叶え、実行できる位の力を、ここ、サンフランシスコで持っている。
(とてもタダの学生アルバイト等ではない)
という事を、藤子は彼女を連れ廻してみて分かっていた。
(竜也も、それに気づいてくれれば良いが)
と思ったのだが、
(無理であったか?)
しかし、竜也は竜也で、この仕事が、何か、おかしいと感じていた。
竜也は、目の前の8巻のファイルを一人で運べるわけがないので、運ぶ方法を考えていた。藤子は、絶対に持ってくれない。
(やはり、瞬間移動を試みるべきか?)
(日本までの移動は、まだ、自分には無理だろうか?としても、ホテルまでは、いけるかもしれない)
(俺様の瞬間移動の能力)
と、考えていると、また藤子の強い視線を感じた。藤子は、同意しているような眼差しである。
(エッ⁉もしかして、俺の考え、分かってるの?)
藤子が うん、うん、と顔を縦に小さく頷いた。竜也は、確信した。仲良しの以心伝心などではない。
(藤子さんは、俺の考えが分かっている⁉)
その時である。ドアがノックされ、五十歳位と思える、上級の役員クラスであろう、二人の白人が入ってきた。そして、その内の一人が、流暢な日本語で、
「それでは、日本式に名刺交換からで」
と、ビジネスカード(名刺)を差し出したのだ。勿論すべて英語表記のカードである。
竜也は、差し出された名刺を受け取り、
(一人は、サンフランシスコ支社長らしい)
英語で、そう書いてある気がする。
(もう一人は副支社長?)
本当なのか?どうかは、分からない。この部屋にはコノ二人の他に、周りに社員はおらず、もう一人は、アルバイトだという、あや子だけなのだから。
(あや子さん、この人も怪しくないか?)
(本当に日本人女子学生?支社長クラスの会議の席に同席するか?)
と、竜也は、訝しがった。
支社長は、ボビーといった。そして、副支社長は、ギャレットというらしい。それが、本当か?どうか?は、我々、日本の地方の新人に近い者では分からない。
一応、こちらも挨拶をする。
ウソの名前を、とも思ったが、日本流に、名刺交換となった為、ニセの名刺など用意してはいない。
「広島支店の南郷(なんごう)です」
「同じく、倉田(くらた)です」
二人は名刺を差し出し、挨拶した。
ボビー支社長から、
「ファイルは、ここに揃えております。持って帰られ前に確認されますか?」
と、竜也は、訊ねられた。そこで竜也は、
「取り敢えず、確認させて頂きます。宜しいでしょうか?」
と、訊ねて続ける。
「ボリュームが分かりませんでしたので、取り敢えず、トランクひとつしか用意しておりません。入るだけ持って帰ろうと思います」
ギャレット副支店長が、
「どうぞ、ご覧ください。ご確認を」
と、右手でファイルを指してリアクションしたので、二人は、早速、ファイルの中身に見入るように確認に入った。
二人とも、日本で散々翻訳した結果、抜けていることが分かっていたファイルがここに有る。そしてその中には、内容として、どうでもよいファイルが有ることが、日本でも分かっていた。この中で、3冊は、いらないファイルである。技術の講演会の記録であることは、想定出来ていた。
「持ち帰れるか、トランクに入れてみても宜しいでしょうか?」
竜也がボビー支店長に尋ねた時であった。
竜也には、部屋のカメラが少し向きをファイルの方に変えた気がした。そう思った時、竜也は、藤子を見た。その藤子は、カメラを凝視している。
(分かっている?俺の心、読まれてる?)
竜也は、藤子を見つめた。藤子も竜也を見ていた。
ギャレット副支社長から、
「この行為は、非合法であり、逮捕され
などと、早口の日本語で、蚊の鳴くような声がしたのだ。
竜也には、それが
(やばい、これは
そう確信した竜也は、藤子の方を見る。同時に、藤子も、こちらを心配顔で見つめていた。
竜也は、ギャレット副支社長の声は聞こえ無かったかの様に、ファイルをトランクに選別しながら入れ始めた。不要な3冊は、トランクに入らないから、と机の上に残すつもりだ。
竜也は、部屋の片隅に置いてあった、持参したトランクを机のうえに置いた。
ボビーも、ギャレットも、それを見つめている。
竜也は、ファイルをトランクに入れては、また出してと、ファイルのトランクへの出し入れを繰り返した。全部入らないので、困っている体で、入れては出してを繰り返した。
そこで、竜也は、小声で神の声の様なものが、聞こえた気がしたのだ。
(この部屋の入口、左隅にあるデスクの左の引き出し、上から2番目に、小銃がある。それを、私に渡せ!移動させろ)
と、女性の声が聞こえる。藤子の声だ。
藤子は、予知能力と、人の心の声を聞く能力、その能力を駆使した時に、透視の様なことが出来ることに気が付いた。竜也は、テレポーテーション、物体を移動させる時に、透視の様な能力を使う。
そこで竜也は藤子を見た。藤子は竜也を見つめている。
竜也は、デスクの左の引き出しと、引き出しの中が、頭の中に見えてきた。ボンヤリとではあるが。その、ウッスラと見えた小銃の映像を頭の中に思い浮かべ、次に、頭の中に藤子の右手をイメージした。そして、動け、動けと念じてみたのだった。
竜也は、机のなかの小銃が少し動いた気がした。そこで、藤子を見た。
藤子は、目を丸くして驚いた顔で、竜也を見ている。そして、自分の右手に視線をゆっくりと移した。
藤子の右手に、小銃が握られている。藤子は、素早く、小銃を懐に隠した。
竜也は、不要な3冊のファイルを残して、後は全部トランクに詰め込んで、フタを閉めた。それから、トランクの中のファイルと、ホテルの自分の部屋に有った、クローゼットの中をイメージしてみる。それから、
(移動、移動)と、念じてみる。
そこで竜也は、誰にも気づかれない様に、ソッとトランクを少しだけ開けて中を覗いてみた。トランクの中には、何もない⁉
テレポーテーション、成功‼
それから、竜也は、藤子を見た。笑顔で、納得した顔をしている。
(逃げよう!)
と、神のお告げの様なものが竜也には聞こえてきた。
(逃げるか⁉)
と、藤子の顔を
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