第4話 サンフランシスコの戦い 始まり?誰が?

 藤子達は、広島空港から、東京の羽田を経由してサンフランシスコ空港に着いた。

到着口を出た所で、シックなイデタチの、あや子が、キラキラのプラカードを頭の上に掲げて竜也と藤子を出迎えていた。

あや子の、端正な顔立ちと、鋭い強めの眼差し(まなざし)は、女子大生と言うには、少し違和感が有った。


プラカード

(エフコム) 

倉田藤子さま


それを見て、竜也は、呟く。

(そこは、俺の名前も書くだろう?)

(一応、主は俺の名前で、サンフランシスコ支社には連絡しているだろ⁉)


藤子と竜也の二人は、空港で、資料を受け取って帰るだけのハズであった。しかし、竜也としては、せっかくサンフランシスコに行けるのだからと、とんぼ帰りの受け渡し予定を、2泊に変更したのだった。サンフランシスコ支社の見学を兼ねて、支社で資料を受け取る事にしたのだ。

あや子の、お迎えプレートについて、

(俺は、藤子様のお付きの者か!)

 竜也は、そう、思うしかなかった。実際、日常、いつもの事である。力の差、身分の差は、イヤと言うほど味わっている。そこに有る圧倒的な力の格差の存在、事実!


あや子は、到着した藤子をタクシー乗り場に案内した。

竜也は二人分?の荷物をカートに積んで、押しながら付いて行く。カートは、三台は必要であった。

あや子は、竜也を一瞥(いちべつ)しただけで、それ以来、竜也の事など見てもいないし、声もかけない。

藤子は、ごく自然に、あや子に、大型のリムジンハイヤーへと案内され、竜也は、藤子の多くの荷物を積んだ荷物カートを、その運転手に引き渡した。運転手は、目と顎で、竜也に、後ろのタクシーを示した。

(後ろのタクシーに乗って付いてこい!)

とでも言うのだろう。

竜也には、

(俺が主役だ!)

という気構えも、意地も、戦意も無かった。何から何まで、誰がどう見ても竜也は、藤子のお付きの者である。召使である。

どう見ても考えても、その様にしか見えない、状況なのだ。

藤子の周りに有る、見えない力の壁。

パワースポット?

(あや子さん、この気持ち、あなたも、もうじき味わいますよ!)

と、竜也は、心の中で思うのだった。


フリーウェイも含め、空港から二十分ほど走っただろうか。2台の車は、小高い丘の上にある街中のホテルに着いた。

白い色の壁に、赤茶の瓦を、ふいた3階建ての南国風なビジネスホテルだ。

リムジンハイヤーの運転手は、荷物を降ろし、竜也の方を見ている。この手のホテルではベルボーイは出て来ない。

(こおいうホテルでは、入口、フロントから自分の部屋まで、荷物は自分で持っていかなければならないのだが)

竜也は、

(いい機会なので、藤子に、シツケとして教えてやろうか?)

とも思ったが、止めた。もし、帰国後、そんな事を楽しそうに父親にでも話されたら、竜也は、翌日には、広島の呉広町の港の海上に浮くことになるだろう。

(その事だけは、確かだ!)

 竜也は、乗っているタクシーの運転手に、乗車代とチップを渡し、前に停車している藤子の乗っていた車の運転手から、藤子の荷物を受け取り、彼にも、チップを渡した。

(チップは領収証がないが、どうやって会社で精算するのだろう?)

と、サラリーマンは先ず考えるであろう。しかし、竜也にとって、別にドウデモ良い事、なのである。

 竜也は、藤子を迎えに行った朝、チップ用にと言われて、藤子のお付きの方から、1ドル札を束で100枚、100ドル札を束で、100枚渡されているのである。チップに困ることもなければ、帰国後の生活まで問題はない。


 三人は、サンフランシスコ市街地の南国風なビジネスホテルに着いた。そのホテルの前で、藤子は、あや子に言った。

「まあ!可愛いアパートね⁉あなたが住んでるの?」

と、聞いたのだ。藤子の、とめどなく、ブリッコな訳の分からない態度に、あや子は、初めて竜也の方をじっと見た。今後の、藤子への対応に大変困惑している状態だ。

あや子は、

「会社で、来客、社員に、何時もお取りするビジネスホテルです。今夜は、わたしが夕食をご一緒させて頂きますので、夕方の6時頃に、お迎えに参ります。2泊されて、日本帰国の時は、私がお迎えに来て、空港まで、お送りします」

と、今度は竜也に予定を伝えた。

そこで藤子は、

「どうしよう⁉食事用のドレス、家に置いて来たじゃない!」

と、竜也を一瞥し、あや子を、みつめた。

あや子は、

「ドレスコードはありませんので、ビジネス用で大丈夫な所ですヨ」

と、今度は、藤子と竜也に言った。

あや子は、やっと、藤子と竜也の、立場と状況を理解したようである。たぶん、正確ではないだろうが、少し適格にだと思われる。

核心には、誰も触れたくは、ないであろう。


 あや子は、先にホテルに入り、フロントに向かい、テキパキと竜也と藤子の二人のチェックインを済ませた。そして、二人にルームキーをそれぞれに渡し、逃げるように、

「それでは、後で!」

と、竜也に挨拶をして帰って行った。

実に手際よい。

(逃げた!)

竜也は、あや子の手際よさに感心して藤子に呟く。

「あや子さんは、うちの会社のサンフランシスコの支社で、アルバイトじゃなく、正社員で、秘書でも、してるのかな?シッカリしているな~、実に手際が良い!」

竜也は、日本の社内で見ていたオフィスレディ達のことを思った。

「エライ違いだ」

朝、出社してタイムカードを押し、会社で8時間過ごした後に、退社の時にタイムカードを押す。毎日、マイニチ、同じ数字を打刻している。そしてテレビや、ラジオの番組のように、芸能ニュースを一日中しゃべり続けているのだ。


竜也は、ホテルのフロントに行き、3ドルを渡し、藤子の方を一見した。フロントマンは急いで、藤子の荷物をフロントに唯一有ったのであろうカートに移し、藤子を部屋に案内する準備をした。そこで、竜也は藤子に言った。

「倉田さん、トーコさん、後で、6時に此処で!」

と約束して、竜也は次のエレベータを待ち、自分で自分の荷物を持ち、自分に割り当てられた番号の部屋に向かう。

 竜也は、自分に割り当てられた番号の部屋に入り、荷物をさばいた。

今夜着るであろう、

明日もだが、次の日も、これ一着しかないのだ。

旅行バックから、ビジネス用スーツを取り出してクローゼットに掛け直した。そして、スラックス・プレッサーが共用ではなく、この部屋専用に部屋のクローゼット付近にあることを確認し、使用可能なのかを確認する。また、冷蔵庫の内に有る物を確認し、料金チェック表も、確認した。

(高~い。外のスーパーで買って来よ)


竜也のファッションセンスは渋めである。スーツは黒がベースで、薄い色合いの縦縞がある。これを着た場合、藤子の近くや隣に立つと、完全に、藤子のボディーガード、そんなカッコイイものではなく、使用人、お付きの人、となってしまう。だから、今回は、サンフランシスコ、憧れのアメリカでもあり、ネクタイだけは派手目なものを持って来た。日本では、決して締めない、着用しない、ただのチンピラかと思われてしまう様なネクタイだ。そのネクタイは、選んでいる時は、渋い模様に見えていたが、明るい光の中で、見てみると、下手なゾウさん、キリンさん、クジラさんの絵だった‥‥、という物。


竜也は、早速、ホテルの自分の部屋の中にあるシャワー室で、シャワーを浴びた。

 ホテルの二階部分の中庭にはプールがあったので、一泳ぎしようか?とも考えたが、直ぐ終わる仕事で来ている。水着などは持って来ていない。シャワーの後は、アンダーを着替え、真白なワイシャツを羽織り、シャツの前ボタンの一番上は、掛けずに先ほどのネクタイを締め、夕食に備えた。


竜也は、確かに、最初は、空港で資料の受け渡しをすると聞いた。が、

(即Uターンで帰るのはもったいない!)

と考えて、取り敢えず二~三泊の出張計画書を会社に提出してみたのだった。すんなり、承諾された。


 夕方、六時になったので、竜也は部屋を出て、フロントのあるロビーに向かう。あや子は、すでに派手なピンク色のドレスをまとって待っていた⁉

目を見張った竜也に、あや子は、

「倉田様から、お電話を頂きまして、どうしてもドレスを買いに行きたい、という事でしたので、サンフランシスコで一番のブランドショップにお連れ致しました。私のも買いなさい、ということで、コレ、買って頂きましたの」

と、恥ずかしそう?にうつむきがちに言った。

それを聞いても、竜也は、別に驚きもしない。藤子の日常(いつも)、ヤリソウな事だ。

ホテルのロビーの、小さな、小汚いエレベータの扉が開き、目を見張る様な、あでやかな紅色のドレスを、おめしになった藤子様が現れた。

竜也は、これにも、別に驚かなかった。

フロントマン他、周りはビックリ、驚いてはいたが、竜也としてはいつもの事、状況、光景だ。

 藤子は、ピンクのドレス姿の、あや子を一瞥して、自分に満足したかのように、一度、うなづき、

「あら、あや子さん、お似合いね」

そしてツイでのように、

「それと南郷君、随分、渋めのネクタイだこと。私が良いのを買っておきましたわよ!」

と竜也は、藤子から真っ赤なシルクのネクタイを渡された。藤子からのプレゼントだが、竜也は、どこかで見た気がする。それは、藤子のお付きの方々が、黒いスーツに全員このネクタイであった⁉

(この野郎、完全に俺のこと、付き人だと思っているだろう!)

竜也は、何も言わずに藤子から渡されたネクタイに取り換え、締め直した。そのタイミングで、あや子が先頭となって、ホテルを出る。ホテルを出た所に、先ほど、このホテルまで乗って来た時のリムジンタクシーが待っていた。三人は、そのリムジンタクシーに乗り込む。

藤子と、あや子は、優雅にドライバーが扉を開けエスコートされ、竜也は、勝手に付き人の様に、リムジンに乗り込んだ。

そして、楽しいディナー(夕食)に向かうのであった。


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