第2話 日々是休日 データ入力
アメリカACMのコンピュータのコピー、コンパチブルコンピュータは、絶対あり得ないと思われる場所、この広島の片田舎の呉広町で、作られていた。
ACMのコンピュータを導入すれば、そのシステムの運用者やハード機器やソフトのメンテナンス人員がACMからやって来る。使用目的、使用状況が、全て分かってしまう。
そこでエフコム電気は、ACMのコンピュータを、東京の、とあるダミー会社(大手金融機関)で購入しておいて、使うフリをした。
そのうえで、ハードウェアは、エフコム電気の機械設計部門がコピーして機器を製作する。そのシステムを、動かす為のオペレーション・システムをコピーしておいて、東京から広島の呉広町に、コピーシステム全てを移設させたのだった。ここで、コピーとは言えない様に、改良されたACMコンピュータのコンパチブルなコンピュータシステムを作り上げる計画なのである。
後ほど、盗作の疑いを掛けられた時のために、コピーをしていない証拠として、オペレーション・システムの開発制作現場を録画しておく。その録画を証拠として提出する手筈だ。開発現場には、アメリカのACM社の人間と接触した、エフコム電気の社員は一切、いない!ACM社のコピーを作る資料等は入手が出来ない環境であることの証明でもあるらしい。
この呉広町の商工会議所の一室で、ACMの最新鋭コンピュータの完全なるコピー作業が始められていた。
ハードウェア、機器は、完全に仕上がっていた。真似をした訳であるが、モーターなど機械部品が発熱し、熱をもつ部分の冷却方法を、ACMの水冷方式から、空冷方式に変えていた。完全なコピーではなく、少しでも変更可能な箇所は変更を加えてある。各種機能性チップは、アメリカ製から日本製に変えてある。あとは、オペレーション・システムのコピーと改良が待たれていた。
藤子と竜也には、そんなことは説明されていない。それに、説明されても何の事だか分からない。開発資料の翻訳をすること。という、主目的は知らされ、仕事を指示されている。なおかつ、翻訳ソフトを作って、膨大な技術資料の翻訳を短時間でかたづける、という命も出されている。英語から日本語、そんな翻訳ソフトを作らされている。
来る日も、来る日も、データベースの構築と言われる、ただただ、データをメモリーに貯め込んでいくデータ入力のお仕事。
通常の人であれば、一時間もすれば不満たらたらで逃げ出すであろう、単純な作業の繰り返し、無味乾燥の様な仕事である。ところが、この二人には適職とみえる。深く考えることは決してないし、それに、そんなことに考えを集中しない。
これを打ち込んでいれば、いいんだ!
他の社員から観ると、二人は、残業までして、こなしている?
二人は、残業と称して、自分の超能力なるものを正確に使いたいが為、成功した事例をデータベースに溜め込んで分析をしている。自分のための別目的。なんせ、この事務所には上司がいない。
監視カメラで監視されているようではあるが、業務指示は朝、定時にFAXで入ってくる。業務の成果は、翌朝、折り返しFAXで返す。まだまだ、この昭和の時期では、インターネット等というものは、未来のマンガ、夢の夢だ。一応、構想は在ったらしい。全てはアメリカの軍事技術。
藤子と竜也の仕事は、英語の莫大な資料を自動で日本語に翻訳し、その資料を基にオペレーション・システムを作り上げること。
翻訳の対象は、アメリカのコンピュータの技術資料と藤子達には思えた。最新型コンピュータの技術資料らしいのだが、全26巻からなる資料のうち8巻が無い。間が飛んで不足している様なのだ。
しかし、そんな事など、藤子や竜也たちの知った事ではないのだ。最後に、上司から仕事の督促をされた時の言い訳になる、と思っている。翻訳しなければならない資料は、少ないに越したことはない。
しかし、それを作れとなると話は別だ。
技術資料なので、その道の技術単語をかたっぱしから覚えさせれば、簡単に翻訳ソフトなど出来るだろう、とタカをくくっていた。しかし、この資料は、この時代の最先端技術の資料らしく、適当な翻訳できる日本語が前例に無い。
バーチャルメモリー、今でいう仮想記憶空間だとか、先端的アーキテクチャをサーベイした文献らしく、適切な翻訳の日本語がこの時点では無い。
アメリカのコンピュータの開発技術資料の全体的な翻訳書を作成し、それに沿ってそのプログラム、たぶんオペレーション・システムと思われるソフトを制作し、デバックし、完成させなければならない!
ケッコウ大変な事なのである。
(別に、急いでやるつもりもナイけれど)
(一応、最新型のようなので、時間が掛かると新型でなくなる可能性もある。いつか、タイムリミットを切られるかも)
(翻訳する元が無いのに、こんな自分達、素人がどうやって?)
と、色々考えてはいる。
そこで、この部屋に、もう一人、時々ではあるが、席を構える若い黒人留学生がいる。多分、彼が、その役を担うのだろう?と、藤子と竜也の二人は勝手に思った。
(面倒な事は、他人にやらせる!)
(自分達に、そんな責任ある面倒くさいことなど出来る訳がない!)
このアルバイトで来ているという黒人留学生、レイノルドという若者は、藤子と、よく目を合わせで会話している様に竜也にはみえた。時折、竜也のことを二人で同時に見ることがあるのだ。
後に、竜也は、藤子とレイノルドの二人がテレパシーの能力を持ち、テレパシーで会話していることを知ることになる。
ある日、三人は会議を持った。
議題は、抜けている資料の部分をどうするか?である。
竜也は、
「先に人工知能を作り上げておいて、そいつにやらせる。究極の人工知能ではあるが、その製作は、他の人にやらせる」
と言い出した。藤子とレイノルドは、見つめ合う。
(なにか?アイコンタクトの様なものか?)
と竜也は思った。
しばらくの間、三人は沈黙した。そして、
「人工知能は、データが無いことは、答えをはじき出せない。だいたい、人工知能を誰が創れるんだヨ!」
と、藤子に竜也の意見が一蹴されると、レイノルドが、
「自分に、良い考えがあります。少し時間が欲しい」
と言った。
「何日かで、うまい方法を考えて手配してみます」
と、言ったところで、それはいい!おまかせします‼と会議は終了した。
それから数日の間、レイノルドは勤務時間に、社には姿を見せなかった。
その間の、ある日のこと。藤子達は残業が多過ぎる事について、どんな顔の上司かは知らないが、イヤミのような、注意勧告のFAXが莫大な枚数、藤子と竜也宛てに届いた。
(ペーパーレスを謳っておいて、どんだけ、紙を使うのだ!)
流石に竜也は、それから数日、残業は控えていたが、藤子は、退社のタイムカードを先に押して、退社したことにして、残業?をしていた。
サービス残業ではナイ。
業務など、していない!
好き勝手なことをしている。
数日後、レイノルドが出社して来たので、三人は、早速(さっそく)会議を開くことにした。勿論、会議室など無いので、何時もの様に、コンピュータの設置してある部屋の機器の隙間に腰を下ろして、という事になる。
レイノルドが、
「残りの資料は、入手できました。サンフランシスコの空港で、あや子という日本人留学生が、それを私たちに渡してくれます」
と、言うのである。
そこで問題は、誰が受け取りに行くのか?であった。
これには、性格上、藤子が、直ぐに手を挙げた。
「私が行く!」
即決である。
しかし、竜也としては、
(そんな仕事、俺ら、何も知らない事務員のやることなの?危険はないの?費用はどうするの?)
と、ウダウダと考えるのであった。しかし、藤子には、費用だろうが、危険だろうが、犯罪・陰謀だろうが、なんの問題もない。人生において刺激、エキサイティングが大事らしい。
藤子と竜也には、サンフランシスコ!の地名だけが、心に響いた。
竜也としては、アメリカという処は、ハワイも含めて行ったことが無い。夢の国で、憧れの地である。社会人となって、仕事を始めてからは、何か機会をみつけて、行ってみたい、と思っていた。
生涯で、新婚旅行で行く、というのダケは避けたかったのだ。
竜也は、小さな声で発言した。
「藤子さん、すみませんが、私も行っていいでしょうか。連れて行ってもらえませんか?費用や手配については、会社と掛け合いますので、荷物持ちとしてデモ」
藤子は、
「いいよ!」
と、快諾である。
(事務員にしておくのはもったいない‼)
竜也は、前々から感じてはいた。
勿論、藤子は、ただの事務員ではない⁉のではあるが‥‥
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