T.K トーコ Ai クロニクル(OS編)

横浜流人

第1話 極、普通のOL

 栗色の長い髪を、後ろにポニーテールに結び、黒のオフィススーツに身を包んだ、端正な顔立ちの、一見、北欧の人?と見間違えられる、藤子(トーコ)、20歳である。

ある事情で高校にはアマリ行けてないが、「ある力」によって、高卒で、世界的なコンピュータメーカであるエフコム電気に地方採用され、入社した。

エフコム電気では、何処の誰であれ、最初の1年は、新入社員研修と称して、東京の開発センターで、長時間重労働を強いられる。重労働とは言っても、データ入力、単調で膨大な量の作業の事であって、腕力、力はいらない。

ここからどういう訳か、藤子のデータベース作りは、次世代AIの基礎を作り上げた。後に分かる事ではあるが。藤子の男前で、気風の良い、いい加減で面倒くさがり屋な性格が、AIシステムの基本定義の構築に、功を奏した。

エフコム電気の、東京の開発センターで行われる新入社員研修では、学習より、プログラミングの入力作業の方が多い。ここで藤子は、とにかく作業出来ると、一気に優秀な新入社員として、有名になったのだった。実は他人にやらせていた。

これは藤子の本意ではない。幼い時から、目立つのは大嫌いで、面倒な事に巻き込まれるのもイヤ!人に指示され、物事をやらされるのは、大の苦手なのだ。

コイツは出来る奴となると、どんどん仕事の指名の方が集まって来る。それも、イヤなのだ。藤子の信条、生き様、性格は、真面目にコツコツとかとは、かけ離れている。だだし、藤子は、他の人をコツコツと働かせる、という能力は、日本の中でも、飛び抜けて優れていた。

そうこうして、藤子は、東京での新人研修の1年を経て広島の呉広町に帰省。やっと、エフコム電気の地元事務所に赴任したのだ。

藤子は、まるで刑期を終えたヤクザ者の様に、地元に迎えられた。

倉田藤子(くらた トーコ)20歳。自分では、獄、ゴク、普通にOLをしている、つもり。

昭和のバブル前の時代、中、後半期のオハナシ。

 藤子の父は、衆議院議員 倉田源蔵(くらた げんぞう)という。元、戦後昭和のヤクザの組長であった。「ある力」である。

そんな藤子には、幼いころから特別な能力が備わっていた。人の心の声を聞く、人と心で会話する、という能力。テレパス、超能力者である。そして少しだけ未来の予知が出来る予知能力が備わっていた。夢が現実となることがある。ただの夢なのか?予知なのか?本人も良くは分からない。

その色々な能力のお陰で、藤子の父親は、何度も窮地から救われた。しかし、その代償として、藤子は、両膝が思う様に曲がらないという後遺症を負うことになる。片膝は銃弾に打ち抜かれ、片足は、トラックに轢き潰された。藤子が、高校生になる前のこと。


父が衆議院議員になる前のことだ。藤子が予言めいたことを言った。

藤子は、ハッ!として、朝、ベッドから飛び起きた。頭のなかに、映像は残っている。

銃口を向けられた父親の姿が見えた!

一発の銃弾が、誰か?に向かっている⁉

それを、藤子は朝食時に、それとなく父親に告げた。

父、源蔵は、ギクリっとして、席を立つ。そして、あちこちに電話をし、慌ただしく行動し始めたのだ。

父、源蔵は、それが何処なのかを知りたい様だ。藤子にその周囲の景色を、しきりに聞いてくる。藤子は、ハッキリしていることだけを、懸命に思い出し、答えた。それを聞いた父、源蔵は、また慌ただしく電話をかけまくっている。そして、電話の相手に色々な指示を出していた。数々の手配をしようとしたのだ。しかし、その指示は既に遅すぎた、の感があったのだろう。

「ダメか、逃げるしかない!」

源蔵は、ため息とともに、はき捨てた。

源蔵は、昔、何度かトーコの予知めいた言葉と、起こった事を回顧する。

今回も、源蔵は、時々、思い出していた。

藤子は、幼い時から、予言めいたことを、たまに言う。そして、それがその通りになることがある。


藤子が、2歳くらいの時であったろうか。

その頃の倉田家の夕餉の時のこと。鯉が泳いでいる池のある日本庭園のような庭を望む、倉田家のダイニングで、源蔵と、その妻と、幼児用の椅子に座った藤子が夕食をとっていた時である。

外は真っ暗。何も見えない、そんな暗だ。そこで、藤子が、突然、言ったのだった。

「お父さん、誰か何人かで、お庭から、いっぱい鉄砲を撃ってくるよ」

「皆に、いっぱい当たって痛いんだよ」

と、藤子は、恐々と言ったのだ。

(何を言っているのだ、この子は?)

(ここには、ガードマンがイッパイ居る。有り得ない⁉)

源蔵は、そう思いはしたが、

「ここには誰も近づけないよ。安心おし」

と、幼子に言い聞かせ、幼子を安心させてやろうと。、藤子の言葉を一蹴にはしなかった。

源蔵は、藤子を見つめ、そして微笑みながら庭のハロゲンランプのスイッチを入れた。

(On)

昼間以上に明るくなった庭には、自動小銃をこちらに向け構えて、今にも発砲する寸前のヒットマンたちが4、5人照らし出されたのだ。源蔵は、直ぐに藤子と、妻を抱え、テーブルの下に潜り込んだ。テーブルに沿って置かれている庭に面したソファーが、盾となってくれた。

眩しいライトに目をやられたか、目を手で覆い隠しながら、彼らは乱射を始めた。その銃声に、慌てて、倉田家のガードマンたちが庭に集結し始めた。

彼らは、慌てて手あたり次第に乱射とかはしない。慣れたもので、一人ひとりを狙い撃ちにしていった。5、6発の銃声……

警備隊長クラスの者が、ダイニングに飛び込んで来た。

「社長、大丈夫ですか?」


(今回も、トーコの言っていることは、本当の話であろう)

 藤子は朝食時に、源蔵に告げた。

「銃口を向けられた父親の姿が見えた」

と、藤子は言った。

源蔵は心当たりがある。ここに抗争が起こる!組を、自分を、狙っている者がいる。

 広島を仕切る任侠会(にんきょうかい)から、倉田一家に、今回の膨大な利権獲得が可能な、競艇場建設の仕事の入札から降りるよう、圧力があったのだ。源蔵は、それを一蹴して、申し入れに来た任侠会の幹部を、酒浸り、女浸りにして河に沈めさせたのだ。そして同席していた県の議員たちは、こちらも女浸りにして、美人局方式で、スキャンダル写真を撮っておいて、今後は倉田の言う事を、良く聞くように、脅しておいたのだった。


そこで、今回の藤子の予言?である。

源蔵たちは、広島の任侠会の幹部を一人、沈めているのだ。間違いなく、任侠会の報復は既に、手はずが整っているであろう。かなり以前からとも思える。

源蔵は、香川(崇の父親)に、倉田家の逃亡を手配させた。大阪に一時退避する。ここはひとつ大阪の友人一家に世話になり、起死回生をうかがうしかない。周りは敵だらけになっている筈だ。

 源蔵の一家は、車に乗り込み、急いで広島の駅に向かった。高台の家を出て、街の商店街に下り、海沿いの国道を使い急ぎ広島に向かう。

商店街近くに来た時、ふと、藤子に、崇の姿が車の脇にあるのが目に入った。

銃弾は、崇に向かって行くのだろうか?


藤子は、幼馴染、舎弟、ボディーガードの同級生、サーファー気取りの香川崇(かがわ たかし)と最近は呉広町の西端にある海にいることが多かった。

広島の片田舎の少年、崇が、シティーボーイを気取ってサーフィンなるものを始めたのだ。穏やかな瀬戸内海では、フェリー客船とか、潜水艦とかが通った後でないと、波は来ない。

 崇と藤子、親同士がヤクザで主従関係にあるため、幼馴染ではあるが、二人には、生まれながらに主従関係が存在している。香川崇の親はヤクザ、その類である。倉田組若頭。

組長は藤子の父、倉田源蔵だ。

二人は幼いころから、何時も一緒にいた。最近は、シティーボーイを気取った男が、自分に付き纏って来るのも、藤子と二人になる事への照れ隠しもあって、許している。

崇は、穏やかな海から上がり、そして、藤子と並んで夕日を眺めた。 二人で……

 正確には二人ではない。三人だ。何時も、崇に憧れている、自分達よりは年上らしき、田舎のシティーボーイ、南郷ナニガシ?が、後ろに控えていた。


「タカシ、早く、家に戻って!」

藤子は、車の窓をおろし、崇に叫んだ。しかし、崇には聞こえていない。呑気に詩を歌いながら自転車をこいでいる。耳にはイヤホンがある。音楽でも聴いているのであろう。外からの音は全く聞こえていない様だ。

「止めて!」

と、藤子は運転手に叫んだ。そして、車が止まるなり、ドアを開け、崇に向かって走って行ったのだった。

母親と、源蔵は、車に戻るよう、叫ぶ。

「やめろ!戻れ!」

銃弾の向かう先、それは正確には崇ではなく、藤子の方だった。藤子は、頑丈な装甲車のような車から出てきたところを狙われた。

弾丸は藤子の右足膝に当たった。その後、2発の発砲音がした。倉田一家を乗せていた車の助手席から若い男が飛び出して来た。右手に小銃を持っていた。

4トントラックが藤子の方に向かって来たのだ。倉田組の若い男が発砲した銃弾が、トラックの運転手にあたり、トラックは、制御する主を失い、崇に向かって行った。

藤子は崇をかばう。

崇を突き飛ばしたが、藤子は自分がトラックに轢かれてしまったのだ。藤子は、左足を砕かれた。

倉田一家は、血だらけの藤子を、直ぐに車に担ぎ戻した。

泣き叫ぶ母親。

窓を開け、叫び、周囲に指示を出している源蔵。

広島駅の新幹線乗り場で、倉田一家は、グリーン車列に並んだ。

そこへ、黒いスーツに黒いサングラス、黒ずくめの四人の集団が、改札階からホームへの階段を走り上って来た。いかにも、ヒットマンです、という服装である。彼らの制服、作業服なのだ。

四人の集団がホームへの階段を登り切り、現れて、右手に短銃を握り、倉田家を目指して走って来た。

藤子は、駅に向かう途中でも、父、源蔵が襲撃され、眉間を銃で打ち抜かれる予知、頭の中の映像が消えないのに怯えていた。

やはり、あのことは、起こるのだ‼

流石の父も、襲撃を回避できなかったか、と思った。


予知は、これか⁉

藤子は、頭に突然浮かぶ光景が、予知なのか?正しい未来の事なのか、未だ、分からないのだ。


 倉田一家は、グリーン列から走って離れ、前方向に逃げた。

黒ずくめの四人の集団は、やはり、こちらを追ってくる。

列車発車の合図が出たところで、藤子たちは、適当な車両に飛び乗った。間一髪、逃れたかに思えたが、集団の一人に追いつかれてしまった。発砲する寸前のところである。しかし、彼の手に持つ銃が、新幹線の閉まるドアに挟まれのだ。

発車のアナウンスとサイレンの音が響く。

「閉まるドアに、ご注意ください」

銃口は、こちらを向いている。男は、一発引き金を引いたところで列車を離れた。手を離さなければ、彼は、列車に引きずられることになる。

ドアには、挟まれたままの拳銃が、硝煙を上げたまま残っていた。

源蔵は、銃弾が僅かに顔をカスッタだけのようで、致命傷はないらしい。源蔵は、暫くして起き上がり、

「あ~、びっくりした」

と、一息ついていた。


銃撃した一人を、勇敢にも若い駅員が、捕まえていた。彼は銃撃犯をホームにねじ伏せている。正義感の塊のような若者である。昔から、正義感は、破滅の象徴、と言われているのを知らないのだろうか。

必死で逃げようとした暴力団組員を捕まえてホームに、ねじ伏せているのだ。危なっかしい、と思われた。

案の定、他の仲間が、その場に集まって来て、勇敢な駅員にむかって、

「何しとん?」

と、尋ねる。

若い駅員は、にっこり笑い、捕まえてやったぜ!と満足そうな顔だ。

それと同時に、暴力団の他の仲間に、発砲された。一人一発ずつ。三発。正義感の強そうな駅員、若い男は、ホームに血だらけになって転がった。


結局、藤子は、広島の市内の病院には連れていかれなかった。崇の父の手引きで、藤子の父親、母親と大阪に逃れ、その逃避先の病院で治療が、密かに、行われた。が、時間が経ちすぎていた。藤子は、後に、後遺症に、苦しむことになる。藤子の両足の膝が曲がり難くなっていた。

倉田家は、大阪の全国的組織暴力団にかくまわれた。

ここに居れば、死ぬまで何の苦労も無いであろう⁉

ただし、いつ死ぬかは、分からないのであるが‥‥


今、藤子は、超能力を持ち、親の組織暴力の力を持つ、ゴク普通?のOLである。

このエフコム電気の広島支店、呉広町のオフィスには、そんな藤子の目の前で、勤務中であるにもかかわらず、(多分、こいつも勤務中だと思うのだが?)さっきから、何度も何度も、全力のアクビをし続けている奴がいた。藤子と同じように、パソコンの様な物で、データ入力の仕事をしている。

彼は、今年、この呉広町に有る地方支店に配属されて来た。新人で、藤子と同じ様に東京の開発センターで、1年間の新人研修を終えて広島に来た南郷 竜也(なんごう りゅうや 25歳)である。

藤子は、先ほどから、この南郷竜也を眺めていた。そして、藤子は思うのである。

(コイツ、三高であるらしい)

(プライド高い、学歴高い、背高い?)

藤子は、この始終、欠伸ばかりしている竜也の頭の中を覗いてみたくなった。

(いったい、何を考えているのか?)

(な⁉、何も考えてナイ!無だ‥‥)

(ホトケ様か?空か?色即是空、さとり?)


 竜也と藤子は同じ部署で、同じデータ入力の仕事をしている。そして、どういう訳か、この部屋には社員は二人だけ。藤子のほうが先輩になるので、仕事とか教えてやらなければならない。しかし、南郷竜也、コイツがポンコツなのだ。馬鹿、とか、不器用(ぶき)とか、要領悪いとかではナイ!全く、やる気も、聞く気も、手伝う気もナイ!のである。

あるのは、強力な眠気だけ。

藤子は、ボ~っと、竜也を眺めている。

竜也の頭の中を覗いてみたけれど、

(無だ!)

(何も考えていない⁉)

 どうやって育ったら、こんな出来損ないが出来て、この会社に入れたのか?

竜也の事など、あまり藤子には関係ない話である。関心も、興味も、無い。

藤子としては、勤める会社は何処でもよかった。父親から入社出来る会社を、多くの企業名を言われたので、最後に言われた企業名しか覚えていなかった、というのが事実ではある。

(多分、南郷竜也も、自分と同じ様なものであろう)

と、藤子は、勝手に思うのだった。

 藤子と竜也に、与えられている仕事は、英語資料の自動翻訳システムの制作と、最新型汎用コンピュータのオペレーション・システムの開発であった。

(新米なのに、なぜ?)

(地方の支店なのに?)

しかし、二人とも物事、そう深く考えてはいない。二人は、仕事の意味、意義まで深入り?しない。

 

藤子だけではなく、竜也も、潜在的に秘めた能力を持っていた。潜在的?と言うのは、まだ本人たちが、その力を上手く使いこなせていない、という事である。

竜也の能力とは、どの様な物も、手を触れずに動かす、瞬間移動させる、トランスポーテーションと言われる超能力だ。


藤子は、先ほどから、暇つぶしにズ~っと竜也を眺めている。


日日是好日 ひび、これ、こうじつ! 千利休 茶道のことば。

日日是休日 ひび、これ、きゅうじつ? 竜也の座右の銘?


本日天気晴朗なれども波高し? 日露戦争の海戦での日本海軍艦長の伝令。

本日ノー天気なれども、プライド高し!


藤子は、竜也を眺めながら、つい、どうでも良い様なことを考えていた。そこでまた、竜也は、すごく力の入ったあくびをする。大きく、本気で口を開ける。

 藤子は、地方の現地採用で、事務職で入ったのに、1年も東京の開発センターで、ソフトウェア開発の研修をさせられ、1年後に此処、広島に戻って来た。

お茶くみダケして、仲間、同僚と、おしゃべりして、ランチして、そんな楽しいOL生活が待っていたと思っていた。それなのに、開発と制作の仕事、なんで?こうなった。


 正午、12:00、何時もの、お昼休みが来た。藤子は、未だに昼の食事休みの時間が苦手だ。

コンビニ(昭和中期では、日本全国でもあまりない)とかのお弁当だとか、家から持参のお弁当(自作、親作、購入)を会議室などでOL仲間と一緒に食べるとか、夢のようなお話である。ここには会議室も無ければ、近くにコンビニも無い。お弁当屋さんも、食堂もこの近くには無い。近所のお好み焼き屋さん、とか、居酒屋の昼バージョンとか、甘味処とかに、お昼を食べに出かける。その店で藤子を迎える店長、店員の態度が、ヤクザの親分を迎える態度、挨拶なのだ。

(こんな処に同僚と来たなら、一発で退かれてしまう)

 そう思う藤子である。

今日も、お好み焼き屋の、のれんを潜るなり、店員全員が出迎え、最敬礼!

「イラッシャイマセ!お嬢様」

 藤子は、店の奥の特等席に通され、席に着くなり、頼んでもいないのに、てんこ盛りの料理、一升瓶がずらりと目の前に並ぶ。

「よろしくお願いします!」

返杯へんぱいを切望する眼差まなざしで、店長以下が藤子を見つめてくる。仕方ないので、一升瓶を抱えて返杯の酒杯(さかづき)に酒をそそぐ。藤子は、思う。

(これ、うら若きオフィスレディの、やることか?)

(あ~、私には友達も仲間もいないわけだ)

いいや、一人だけ、先ほどから藤子の前の大盛料理を羨ましそうに眺めてる奴がいる⁉決して友達でも仲間でもない、南郷竜也だ。

 藤子は、目の前の大盛のおかずが盛られた大皿、一皿を、竜也に渡してみる。犬に餌でもやるように。竜也は犬の様に、口を開け、舌を出して、喜んでいる‥‥


 藤子は、生まれた環境のせいで任侠的親分力があるが、まだまだ、超のつく能力を秘めている。

テレパスの能力者。

 距離に関わらず物や人の心の声を聴くことが出来る。そして、伝える。使い方によっては、相手の心に囁きかけて洗脳し、脅し、自分の思い通りに動かすことも可能なのだ。

 それと、予知能力。これが藤子には、訳が分からない。どのような条件で、何が予知できるのかが、自分では分からないのだ。たまに、突然頭の中に、映像が現れる。夢か、予知なのか?分からない。時々、これは、透視ではないか?と思うこともある。

予知能力の使い方、というか、正しい予知とは?の条件出しに、翻訳システムの開発、データ入力によるデータベース作成の仕事は極めて都合がよかった。成功事例をデータベースに貯め込んでいけば、正しい予知の仕方が分かるのではないかと思われた。今の職場は、予知の条件出しの為の、ツール(道具)が整っている。現時点での世界最高水準の全てがある。

 藤子は、この会社に入ってから、データを入力し続けている。翻訳システムの開発、データベース作成では新人教育の頃、学んだことが寄与している。藤子は、事象ごとに成功、正解、マチガイなどの条件で括り付ける作業を2年も続けてきた。こんなことが、未来のAIの基本となり、AIシステム製作にも繋がった。昭和の中後期では、AIは、まだ構想さえもされていないのだが。

 AI(人工知能)は、人間の行動の一部をコンピュータに再現させたもの。経験から学び、学習することで、人間が行うように柔軟に行動を導き出す。ゲームから自動車の運転まで、AIの事例の殆どは、成功した経験の積み重ねに依存している。AIのテクノロジーを応用すると、多種、大量のデータからコンピュータに成功パターンを認識させて、経験豊富な対処を導き出せるように、コンピュータを訓練することができるのだ。

面倒クサガリ屋、何でも人にやらせる、藤子にとっては、得意分野であった!

そして南郷 竜也の、隠れた能力、トランスポーテーションであるが、こちらも藤子と同じで、本人に能力の正しい使い方が分かっていない。能力を使おうにも、思った通りにいく時と、いかない時がある。トランスポーテーションの成功する条件を見つけ出すのには、この会社に入ってから任されている翻訳システムの開発の方法は、竜也にとっても、うってつけであり、最適であった。

成功する条件と失敗事例をとにかく、データとして溜め込む。どの様な条件下で、その能力が成功しえるのか?を探る、導き出す。

その為には、とにかく、次から次に条件と結果をデータベースに貯め込むのだった。

藤子も竜也も、好き勝手にデータベースを作っている。この部屋には、藤子と、竜也、くらいしかいないのだ⁉

 上司もいなければ、女子もいない。

 みんな、別の階にいるようだ。

(なんで⁉)


 藤子達のいるオフィスは、シャッター通りの空き地に不自然に建築された高層ビルの中にある。このビルには商工会議所、市役所機能の一部が入所している。無理やり、誰かが、土建屋利権のために建てさせたような高層ビルだ。もちろん藤子の父、倉田源蔵もからんでいる。ハズ。

 その最上階25階に 南郷、倉田の勤める事務所はある。

二人の勤める会社は、日本製コンピュータを製造開発するために、国からの全面支援を受けていた。国の関与する企業と、放送局や新聞社、各省庁の地方局、電力会社、等にエフコム電気の国産コンピュータは、導入されていた。

 しかしながら世界のコンピュータ市場はアメリカの軍の技術を発展させたACMこと、アメリカン・コンピュータ・マシン社に牛耳られている状況であった。

 日本やドイツなどの国は、ACMに対抗できる国産コンピュータ会社に国産のコンピュータの開発を急がせていた。

手っ取り早く、ACMの技術を盗み取り、マネをする。あとは国が何とか面倒を見る。

 ACMの最新コンピュータの完全コピー、コンパチブルコンピュータは、絶対にあり得ないとが思われる場所を選ばれ、この広島の片田舎の呉広町でエフコム電気によって作られていた。

藤子と竜也は、開発担当などと任命されてはいても、コンピュータをコピーする為のアメリカの機密開発資料の翻訳をさせられていたのだ。まずは、膨大な英語の技術資料の翻訳を短時間で片付けられる翻訳システムを作らされていた。作ると言っても、来る日も、来る日も、データベースの構築であろうと思われる、ただただ、データ入力のお仕事。

英語の日本語訳、意味をデータ入力する。その後は、文章の単語の前後の言葉を関連付ける。前後の言葉によっては、単語の意味が異なる。より正確な翻訳が出来るように、データベースを作る。そして、その翻訳された資料に沿って、その通りの新型コンピュータのオペレーション・システムを創る⁉

(誰が⁉)

などとは、二人は考えない!何にも考えていない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る