第66話

「やあ、白兎ホワイトラビットちゃん!」


 この街に滞在し始めてから早くも4日。ギルドでは顔なじみも増え、こうして声も掛けられるようになっていた。街中は兵士が多く、なんとなく居心地の悪さを感じている冒険者たちは、こうしてお互いに情報収集を活発に行っているという訳だ。


「こんにちはヨハンさん、それにビルギットさんも」


 ロザリアがそう返した相手は、俺達と同じくコンビの冒険者だ。とはいえパーティ登録を行っている訳では無く、あくまで一時的な物だと言う。


 彼等は俺達を見かけるたび、こうして話しかけて来る。戦争までのレベル上げの為、一緒に組む相手を探しているというのだ。そのお眼鏡に適ってしまい、会うたびにこうして口説かれてしまっている。


「んで、どうだい?俺達が足を引っ張ることはまず無いし、君達にとっても有益だと思っているんだが」


 彼らは共にBランク。Dランクの俺達では邪魔になるだけだと最初は断っていたが、今日の依頼でCランクに昇格する事が出来た。


 しかも彼等は共に前衛タイプだといい、パーティ構成としても相性がいい。まだ付き合いが短いとはいえ、気さくに話しかけてくれる彼等はギルドの評判も良く、正直、かなり悩む所だ。


「私はいいと思うわよ。二人が入ってくれればBランクの依頼も受けられるし、特にデメリットは無いと思うわ」


 デメリットが無い、というのは建前だ。実際には、彼等と組むことで使いにくくなる技術が多い。だが、俺達のパーティはまだCランク。彼等が臨時でもパーティ入りしてくれるのであれば、Bランクの依頼もこなせる。それは確かに大きい。


「お試しって形で一度組んでみてもいいかな?多分大丈夫だと思うんだけど、実際やってみないと分からない事もあるしね」


「勿論構わないさ。ビルもそれでいいかい?」


「ああ⋯⋯問題ない」


 相方のビルギットさんはとても物静かだ。しかし存在感だけは圧倒的で、身長は2m40㎝程はあるのでは無いかという規格外な大男。いかにも頑丈と言った感じのプレートアーマーを着用しており、フルフェイスの兜のせいで表情も見えない。最初はえらく不気味に感じたが、話をしてみるとちょっと不器用なだけだった。コクコクと相槌を打つ姿は可愛らしく、中身はきっといい人なのだろう。


 対してヨハンさんは驚くほど好青年で人当たりが良い。ムサ苦しい冒険者が多い中、驚くほど爽やかな印象を与える彼は、きっと異性にモテるのだろう。邪魔にならない程度に揃えられた綺麗なブロンドと、見る者を惹きつける紅い目が特徴で、身長も180㎝前後。相方との対比のお陰で小さめには見えるが、いざ近くに寄ってみるとその大きさに驚く。


 そんな二人が敢えて俺達のパーティに入ってくれると言うのだが、心境は少し複雑だ。多少伸びたとはいえ、俺の身長はまだまだ低い。ロザリアの身長は抜かしたが、ビルギットさんと比べると完全に親子と言っていい身長差なのだ。回りから見れば、ピクニックに来た親子連れといった印象にもなるだろう。


「職業的にはバランスいい筈なんだけど、俺達が前衛やると敵が見えなくなっちゃうかもねぇ、ははは」


 懸念はもっとも。実際に陣形を組んでみると、やはりビルギットさんの大きさが目立ってしまう。射線にかなり注意を割かないといけなくなる構成となるため、位置取りはかなり難しいパーティとなってしまった。


「取りあえずは2枚盾構成だね。中央を開けて後衛の射線を通す形で行ってみよう。オルトとシャルちゃんは僕らより更に外側に展開して広く取るようにしてみようか」


 色々と試行錯誤した結果、弓の形の様な陣形を取ることが決まり、そのままお試しとばかりに依頼を受けに行くことになった。


 依頼の難易度は、当然俺達に合わせたCランクだったのだが、まるでDランクかEランクの依頼なのではと思える程スムーズだった。


 実際の戦闘で陣形を組んで戦える状況というのはさほど多くは無い。だが、ハマった時の安定感はピカイチという結論に至り、俺達はパーティの結成を承諾する事になる。雑に決めた構成だったにも関わらず、驚くほど滑らかに機能してしまったため、相性抜群なのでは?と互いに納得し合った結果だ。


「耐えてる間に敵が死ぬとか楽過ぎてタマランねぇ!剣が錆びちまいそうだ」


「関節が錆びるのは良くないが、楽なのは良い」


 ヨハンさんは典型的な片手剣タイプ。盾と剣を持つそのスタイルはとてもバランスに秀でており、ソロでも充分な成果を上げられるが、威力には乏しい。攻撃と防御を切り替える事が多いため、火力としてはイマイチなのだ。


 ビルギットさんは全身鎧を利用した所謂タンクで、近接格闘系の職業だそうだ。盾は利用しないが、細やかな体裁きで攻撃をいなし、敵の攻撃を無力化する。巨体にあるまじきその軽やかさは、見ていて唸る程だった。


 そんな二人が上手く隙を作ったタイミングで、ロザリアの高威力魔法が敵を凪払う。非常にバランスのいいパーティだが、俺の居場所無くないかコレ?


 なんならシャルも補助魔法で忙しくしており、隙の出来たタイミングで攻撃魔法でアシストなんかもしている。パーティ火力は過剰なので俺の出番など全くない。というか、俺の火力なんて近接の間合いに行かない限りはたかが知れている。前衛の邪魔になるため後ろに控えるしか無いのだ。


「リーダーはオルトで決まりだな。俺らには後ろの様子がわからんし、ロザリアちゃんも詠唱時には隙が出来る。その辺の見極めと的確な魔法の指示なんかをオルトがやってくれれば完璧だな」


「⋯⋯要は暇人に面倒事を押し付けるって事で?」


「ご明察!」


 パーティに余力がある事は大変望ましい事だ。だが、このままではただのヒモと変わらないという状況は打破しなくてはならない。せめてリーダーとしてあれこれ雑務をこなしつつ、何か手段を考えなくてはな、と心に誓うのであった。

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異世界転生者殲滅す<チートスレイヤー> 六条 @lockjoe

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