えーまじ素顔!? 素顔が許されるのは小学生までだよねー!?

ちびまるフォイ

<< 見せられないよ! >>

「恥ずかしい……///」


「恥ずかしいことなんてないよ。ほら、足をどけて」


女は恥じらいながらもそっと足を広げた。

男はその中に頭を突っ込んむと……。


「……あの、なんでモザイクかかってるの?」


「だって処理してないもん」


男が期待したその場所は厚めのモザイクで加工されていた。

翌日、そのことを同僚のホスト仲間に話すと笑いの種にされた。


「で、お前その後は何もせずに帰ったと?」


「頭が真っ白になったんだよ。急に現実世界でモザイクが出てきたんだから」


「そんなの今じゃ常識だろ」

「はあ?」


「聖矢さん、ダンテさん、テーブルお願いします!」


ボーイの呼びかけで席に向かってその先は聞けなかった。


「どうも、失礼します。マブキ町No1ホストの聖矢で……」


何度もいい慣れた名乗り口上も言葉が詰まった。

なにせ客の女の首から上にはモザイクがかかっていた。


「キャー聖矢ーー! 会いたかったーー!」


「あの……その前に、なんで顔にモザイク入っているの?」


「だってぇ~~。今仕事帰りで化粧ぼろぼろなんだもん」

「お、おお……」


「それに、私がここを出入りしているってこと

 知り合いに見られたら恥ずかしいじゃない?」


ホストとしては相手の顔で客を特定しないとリピートがつかない。

自慢のスマイルを見せつつ甘い声でささやいた。



「でも、俺は君の可愛い顔がみたいな……(エコー)」




「え? それってなに? 崩れた私の顔が見たいってこと?」


「あいやいや! そういうわけではなくて……」


「もういい! こんな店、二度と来ないわ!!!」


客は怒って帰ってしまい、他のホストは慌ててかけよる。


「おい何やってんだよ! お前の太客だろ!?」


「いやだって顔モザイク……」


「声とかしぐさでわかれよ!」

「俺はメンタリストか!!」


マブキ町のホストとして成り上がっていたはずだが、

顔にモザイクがかかった瞬間にいつもの接客ができずどんどん客離れが加速。


もういっそ、モザイクしている人は犯罪の疑いがあるとかこじつけて

入店拒否してくれたほうが接客難易度が下がるものだが……。


「今日も素敵だよ」


「え? なんで顔にモザイクかかってるのにそんなことわかるの?」


「ほら……君のたたずまい? とか……」


「そんなとってつけたようなお世辞嬉しくないわ! 女をなめないで!!」


客から水をぶっかけられたその日、店長に呼び出された。


「聖矢、お前どうしたんだ。前はあんなに調子良かったのに」


「最近、店にやってくる女はどいつもこいつもモザイクしているでしょう。

 顔の小さな変化にも気付けるのが武器だったのにそれが使えないんです。

 それに顔が見えないから、一見さんかどうかもわからないし……」


「はぁ……聖矢、お前はこのホストクラブに入り浸りすぎて外が見えていない。

 ちょっと客引きやってこい」


「俺がですか!? うちのエースでしょう!?」


「元、な」


店の外での客引きはホストにとって新人や底辺のいわば汚れ仕事。

ホストに興味のない人間を引き入れることで話術が磨かれるんだとか。


「なんで俺がこんなこと……を゛っ!?」


夜のマブキ町に出て驚いた。

行き交う人の顔はほとんどがモザイクで覆われていた。


「なにがどうなってるんだ……!?」


普段なら顔を見て、マブキ町に慣れてなさそうな2人組を誘うのが鉄板だが

顔がモザイクで隠されているのでもはや年齢すらもわからない。


「どいつもこいつも自分の顔を隠しやがって……匿名掲示板の世界か!」


毒づいた後に営業スマイルを貼り付けてチラシを見せてゆく。


「そこの君、ちょっとそこにある店でお茶していかない?

 新しくできたホストクラブなんだけど……」


「あんたね、スーパー帰りの主婦がホストクラブいくと思ってるのかい?」


失敗。


「こんにちは、君たちかわいいね。今なら500円でホストクラブ行けるんだけど……」


「ママ、なんか言ってる」

「うちの子に変なこと吹き込まないで!」


失敗。失敗、また失敗。

モザイクで顔がわからないと何もできやしない。


「ねえ君たち。そこに新しくおしゃれなバーができたんだけどどうかな?」


「え?」


断られることもスルーされることもない。

のべ100組以上を総当りしてやっとヒットした。

このチャンスは逃せない。


「バーラウンジ"セイント"って言う店ができたんだ。

 それでオープニングキャンペーンで、若い子2人なら今だけ無料で……」


相手はまるで自分の営業トークに耳をかさず、

なにやらヒソヒソと友だちと話しているのに気がついた。


「あ、あの? なにか?」


「え? お兄さん、なんで顔モザイクしてないんですか?笑」


「なんでって……」


「今どき、顔モザイクしてないとか個人情報だだもれですよ」

「そんなこといっちゃ悪いよ」


「そ、そんなおおげさな……」


「え、てかモザイクかける必要がないほど自分の顔に自信があって

 それを武器にできると思っているから顔を晒してるんですか」


「ナルシストじゃーーん」


さんざん冷やかした後「ナル男は無理」と言われて去ってしまった。

持っていたチラシをぐしゃっと握りつぶした。


「顔を出してなにが悪いんじゃーー!!」




「お困りですかな?」


「あなたは?」


「私はモザイク除去機売りの少女ですじゃ」


「少女の口調じゃないでしょう」

「女性はいつでも心は少女じゃて」


それでも路地裏に怪しげに座る占い師のような老婆にはモザイクがかかってなかった。

それだけで自分と同じ側にいる人間だとどこか安心できた。


「それで、モザイク除去機というのは?」


「その名のとおりですじゃ。モザイクがかかっている箇所を消すものじゃ」


「そういうのが欲しかったんですよ!」


危うく飛びつきそうになったが急ブレーキがかかった。


「……それって本当に効果あるんですか。

 昔、モザイク除去機を試してもぼんやりとしかできなかったんですよ」


「なにで試しましたですじゃ?」

「……動画とか」


「それはデータだからですじゃ。モザイク加工されたものを復元は難しいですじゃ。

 でも、現実世界で顔にかけられいるのは加工ではなくフィルターですじゃ」


「……?」


「つまり、モザイクという仮面をつけているにすぎないんですじゃ。

 この機械ではそのモザイクがかかっている箇所をピンポイントで消すんですじゃ」


「なるほど! それは効果ありそう!!」


「効果は保証済みじゃて」


ホストをはじめて溜め込んだ貯金を切り崩し、モザイク除去機を買った。

高い買い物であったが、自分の望む顔が見える世界が取り戻せるなら安いもの。


自分のポケットに除去機をしこみ、ホストクラブへと出勤する。


「聖矢さん、3番テーブルお願いします!」

「オーケィ」


ボーイに軽くウインクをしてテーブルへと向かう。

待っている客は顔にモザイクがかかっていた。


前まではそのモザイクで見えない顔を見ただけで、

どうすればいいかと内心冷や汗をかいたものだが今は違う。


かつての全盛期のように余裕たっぷりの立ち振る舞いで席に座る。


「どうも、このホストクラブの看板しょってます、聖矢です☆」


客が今どこを見ているのか。

どんな顔をしているのか。

話を聞いてほしいのか。

酔っているのか、いないのか。


あらゆる情報を把握するために表情は必須。


(今こそ使うときだ!!)


ポケットに隠していたモザイク除去機のスイッチを入れた。


モザイクのかかっていた箇所はあっという間に消えた。



「うそだろ……そういう意味だったのかよ……」



ホストクラブには首から上が消えた死体が今も血を吹き出していた。

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