第25話 女子高生(試供品)①



「わたしと付き合っちゃう?」



 からかっているのかと思った。

 でも、冗談でそんなことを言う子ではないとも知っていた。


 後ろ手に立つ姿はどこか不安げで。

 意固地ですぐムキになるいつもの彼女とは違っていた。



「ほら、高校生活も残り半分ちょっとなのに、光くん、恋愛とかしてこなかったでしょ。い、言わなくても分かるんだからね。それに、どうせ周りには誤解されてるんだから、付き合ったほうがお得だと思うけど?」



「......葵」



「別に光くんのこと、好きとかじゃないよ。ただかわいそうだなあと思うだけで。わたし、友だちは多くないけど、見た目はけっこう悪くないでしょ」



 えへん、と反らした胸は見事なまな板。視線に気づいたのか、葵は自らを抱くようにして胸を隠した。



「ここは、ひののんに比べたら、頼りないけど。わたしといれば、家族のことを考えずに済む。ひののんのことで悩まずにいられるんじゃない?」



「それは......」



 反論できない。

 拒否する理由もなかった。


 こんなに可愛い女の子が、自分と付き合ってもいいと言っている。他の男子が聞いたら、睨まれること必至だろう。断るほうがおかしいってのに。


 ちらつくのは、日ノ宮さんの顔。

 俺と葵を応援すると、心から喜んだ。


 ママになると言いはった日ノ宮さんなら、きっとこの状況も喜んでくれるのだろう。


 ......俺はそんな祝福なんていらないのに。


 やっぱり、無理だ。こんな気持ちを抱えたまま、受け入れることはできない。葵のためにも。


 意を決して顔を上げれば、葵はすべてを悟ったような表情で俺を制した。



「いいよ。言わなくても」



「......ごめん」



「でも、いいのかな。断って困るのは、光くんだと思うけど」



「......?」



 困るのは、俺?

 それは、いったい......


 意味が分からず、固まる俺に葵は不敵な笑みを向ける。それは、どこかの誰かに似た、ひどくニヒルな笑いだった。


 数分後、教室に着いた俺と葵は、疲れ果てた日ノ宮さんに迎えられた。



「ひどいよ、藤原くんとふたりにするなんて。あのあと、しばらくいっしょにいたんだけど。あの人、気さくに話してるようで、目が全然笑ってないんだよ。なんだか、怖くて」



「そういうやつなのよ、あいつは」



 葵は少々呆れたように答える。

 俺も同感だと頷く。



「葵ちゃん、藤原くんとも親しいんだね。さっきも和気あいあいと話してたし。もしかして藤原くんが、す、好きとか?」



 日ノ宮さんの中で、近しい男女はすべて恋仲なのか。いや、それ以前に、どこをどう見たら、ふたりが和気あいあいとしていたと思えるんだ?


 その思考に首を捻っていると、突然腕を掴まれた。二の腕が頼りないなにかに包まれる。



「それはないよ。だってわたし、光くんと付き合ってるんだから」



「......へ?」



 阿呆みたいな声を出して、日ノ宮さんは口をあんぐりとさせる。それから、光の速さで視線をこちらに向ける。


 俺は自由なもう片方の手で痛む頭を押さえた。どんどん泥沼に浸かっていくような心地がしていた。



「......もう、知らね」


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