第4話 ママとお風呂、ときどきパンツ②
日ノ宮さんが風呂場に行くと、俺は手早く夕飯の支度に取り掛かる。
今日はパスタとポテトサラダにしようと考えていたが、3人分の材料はない。卵はあるからオムライスにしよう。そこにスープを合わせればいいだろう。
そういえば、好き嫌いの有無を日ノ宮さんに聞かなかったな。今度聞いておかないと。
玉ねぎを野菜ストッカーから取り出し、皮を剥こうとしたところで、リビングのドアが開いた。
「ひ、光くん」
「ど、どうした、日ノ宮さん」
「あ、こ、来ないで。下着姿だから!」
「......へ?」
言われてみれば、日ノ宮さんは身体を隠すようにしてドアの隙間から顔を覗かせている。
俺は寄る足を止めた。
「あのね、バスタオルを買ってくるの忘れちゃって。よかったら貸してくれないかな」
「あ、ああ、いいよ。今......は近寄れないから、あとで持ってく」
「ありがと」
ばたんとドアが閉まる。
日ノ宮さん、髪を下ろしていた。
しかも、ドアなんかじゃ隠しきれない色気が。
「......なんで下着姿で出てきたんだよ」
あれじゃ、こっちはよくても玄関からは丸見え。
いや、こっちにもよくはないけど。
官能的な衝撃に思考も動作も完全ストップ。
俺はキッチンでしばし呆然とする。
......そうだ、早くタオルを持っていかないと。
タオル類はまとめてリビングの端の棚に置いてある。居間に置くなんてと思うだろうが、男ふたり暮らしには楽だった。
「着替えの上に置いとけばいいか」
バスタオルを手に脱衣所へ向かう。
そして、金属製のラックに置いてある日ノ宮さんのものであろう衣服の上にタオルを重ねた。
かたん、ことん。
隣の風呂場から物音が聞こえる。
磨りガラス越しになにかが動いているのが分かる。
見テハイケナイ。
慌てて目を逸らすが、その反動でラックにぶつかり、バスタオルが落ちてしまった。
日ノ宮さんが使うタオルだ。
俺はすぐに拾い上げる。
と、そこで。
がらりと開く磨りガラスの戸。
「......へ?」
「ひ、ひひひひ光くん!?」
湯気に包まれ、現れた日ノ宮さん、の裸体。
なにも隠されない、生まれたままの。
「ご、ごめんっ」
がたがたん、となにかを落とす音がしたが。
今はそんなもの気にしていられなかった。
脱衣所を逃げるようにして出る。
そして、そのまま壁に寄りかかった。
「完っ全に、やらかした......」
しかも、超ド級の失敗。
こんなの、取り返しがつかないだろ。
廊下に座りこみ、頭を抱えて。
そこで、バスタオルを持ってきてしまったことに気づく。
......つくづくツイてない。
自分に呆れてしまう。
持っていって謝ろうにも、いったいどんな顔で日ノ宮さんに向き合えばいいんだ。
「......ん?」
すると、安物の使い古されたブラウンのタオル、その隙間から、なにか小さな布がはらりと落ちてきた。
「......っ、これ」
間違いなく、あれだ。
つるりとした桃色の布地。フロント部分は繊細なレースで覆われ、中央には可愛らしげに赤いリボンがあしらわれている。
「もう、どうすればいいんだよおおぉぉ」
俺は激しく頭をかきむしった。
自分の下着を片手に現れたクラスメイトに、日ノ宮さんはどんな反応をするだろうか。もうどうすれば、事を穏便に済ませられるのか分からない。
そんな俺でも、ひとつだけ分かったことはある。
──ママのパンツは、意外にエロい。
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