第3話 ママとお風呂、ときどきパンツ①
「ここがトイレでそっちが空き部屋。半分物置きになってるけど、あとで片づけるから。それから奥の部屋は、絶対に入らないで」
トイレ、空き部屋、絶対禁域。
日ノ宮さんは指差しで繰り返す。
その度に結った髪の先がぴょこん、ぴょこんと。
あからさまな冷たい物言いにも真摯に頷いてくれて。
少し、調子が狂う。
「父さんの部屋は1階にあるけど」
「うん、さっき見たよね」
「荷物はそっちじゃなくていいの?」
父さんは2階の空き部屋に案内してくれと言っていた。だけど、普通は恋人同士同じ部屋で生活するもんじゃないのか。
いや、決して普通ではないけど。
なんのことかと一瞬ぽかんとして。
それから、日ノ宮さんは頰を赤らめて答えた。
「そんな、桐人さんと同じ部屋なんて」
「いやいや、俺が言うのも変だけど、そういう関係なら当たり前だと思うよ」
「いやいやいや、関係とか、そんな」
日ノ宮さんはぶんぶんと手を振って否定する。
なにを今さらとも思ったが、あまり聞くのも野暮というものだ。それに、俺はまだ信じていなかった。
いくら問題を起こすのが得意だからって、あの父親が女子高生に手を出すはずがない。
これにはなにか裏がある。
そう確信していた。
「分かった、わかった。じゃあ、ひととおりの案内も終わったし、このあと空き部屋に荷物を運んでおくね」
「あ、ありがとう」
「ほかになにか聞きたいことある?」
「えっと、桐人さんはいつも休日に出勤を?」
「いつもではないよ。でも会社でトラブルが起きれば、さっきみたいに呼び出されて行くこともある。泊まることも多い」
「そっかあ......」
「とりあえず今日は、明日も学校があることだし、荷ほどきもそこそこにして、早めに休もうか」
「うん、そうだね」
いろいろと気になることはあるけど、どう聞き出せばいいのか分からないし、問い詰めるなら日ノ宮さんでなく父さんだ。
ひとまず今日のところは彼女がリラックスできるように尽くさなければ。
「あの、さ」
「ん?」
「すごく申し訳ないんだけど、荷造りとかでたくさん汗かいちゃって、先にシャワーを浴びたいなあって」
「あ、ああ、そうだよね。さっぱりしたいよね」
「ごめんね、図々しくて」
「いや、こっちも気が利かなくて」
日ノ宮さんは本気で申し訳なさそうにしているが、俺はまったく別のことを考えていた。
──日ノ宮さん、あの日ノ宮さんが俺ん家の風呂に入るんだ。
空き部屋を覗く日ノ宮さんを盗み見る。
白のワンピースに包まれた身体はとても細く、しかし一部分だけが著しく突出していた。あまりの膨らみにネックレスも押し上げられている。
やばい、平常心が、保てない......!!
「じゃ、じゃあ、その間、俺は夕飯作っとくね」
「え、いいの?」
「も、もちろん」
やったあ、と日ノ宮さんは小さくガッツポーズ。
それに合わせて、胸がふよん、ふよんと。
......これは、前途多難だな。
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