第2話 あなたのママよ②
数分後。
俺は日ノ宮さんとダイニングテーブルで向かい合っていた。
父さんは奥のキッチンで飲み物を用意している。
とりあえず玄関で立ち話もなんだからとリビングに行くよう促すだけ促しておいて、自分はそそくさ逃げてしまった。
残された俺たちは気まずい雰囲気のまま。
4人がけのテーブルに縮こまって、互いになかなか掴めない現状をなんとか探ろうとしていた。
「えっと、学校とはずいぶん格好が違うんだね。一瞬誰なのか分からなかったよ」
「さ、さすがに休日に制服は着ないよ」
「確かに、そうだよね、うん」
......なんだ、この会話。
付き合いたてのカップルかよ。
日ノ宮さんは大きな瞳を泳がせながら、サイドに低く結った髪に手をやった。
ポニーテールの日ノ宮さんしか知らなかったから、その姿はとても新鮮で。よく見れば制服でない日ノ宮さんも初めてだった。
青い小花柄の白いワンピースに、薄く羽織ったベージュのロングカーディガン。さりげなく合わせた小さな花のネックレスも日ノ宮さんの清純さを表しているようで。
なにからなにまで完璧だった。
こんな人が父さんと知り合いで、まして俺の母親なんて、いったいどういうことなのだろう。
その疑問に答えるべき当の本人は、能天気にも、右手に盆、左手にシュガーポットを持ってリビングに現れた。
しかし、額にしっかり汗はかいているのだから、俺たちの反応を一応は気にしているのだろう。
「光はカフェラテに砂糖が2つでよかったよな。えっと、日ノ宮さんには紅茶を用意したんだけど、砂糖はいる?」
「いえ、無糖で」
「じゃあ、どうぞ」
父さんは日ノ宮さんの前にティーカップを、俺の前に猫の絵が描かれたマグカップを置いて、その中に角砂糖を2つ落とした。
「さて、それじゃあ」
空になった盆をテーブルに置いて、父さんは日ノ宮さんの隣、俺の斜め前に腰を下ろす。
いつも向かいに座る父さん。
なんだか変な感じがした。
「ちゃんと説明しないとな」
「当たり前だよ」
突然クラスの女子を連れてくるなんて、どうかしてる。しかも、ママだなんて冗談が過ぎる。
しっかり経緯を話してもらわないと。
父さんは俺を真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「結論から言うと、父さんと日ノ宮さんはいっしょに暮らすことになった」
「......はい?」
それは聞いた。
いや、聞いたけども。
父さんと、日ノ宮さん!?
なんだ、その括りは。
まさか、父さんと日ノ宮さん......いやいや、日ノ宮さんは未成年、父さんだってもう40代半ばなんだ。そんな間違い起こるはずがない。
はずがない、のに。
「父さんは真剣なんだ。難しいだろうが、どうか受け入れてほしい」
「わたしからも、お願いします......!」
どうして俺、ふたりに頭を下げられているんだ──!?
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