隣の席のママ=日ノ宮さん

もあい

第1話 あなたのママよ①



「今日から、あなたのママよ」



 このセリフにどんなにか憧れたことだろう。


 幼いころに亡くして以来、母親というものにずっと憧れてきた。


 そりゃ実の母親以外認められない気持ちもあったけど、時が経つにつれ、羨望の念が強くなり、今や老いる一方の父親にせっついたりもしていた。


 だから父さんが会わせたい人がいると言い出したときには、どんなに喜んだことか。



「ひ、日ノ宮ひのみやさん、だよね?」



「はい、日ノ宮です......って、ひかるくん!?」



 ──しかし、それがクラスメイト、しかも隣の席の女の子だったら話は別だ。



「日ノ宮さんがどうしてうちの家に、ていうかあなたのママって、え、どういうこと!?」



「え、えっと、今日からここに住むことになって、この家の子のお母さんになろうって来たんだけど、え、桐人きりとさん、これはいったいどういうことなの!?」



日ノ宮さんが勢いよく後ろの人物を振り返る。


戸惑う可憐な少女の後ろで、俺の父親が気まずそうに頭をかいた。



「やあ、困ったなあ。ふたりは知り合いだったのか」



困った、困った、と父さんは眉尻を下げる。


おいおい、嘘だろ。

また、なのか。


昔からトラブルを持ちこむ天才だと思ってはいたが。まさか、高校生になってまで悩まされるとは。


どうしようかと苦笑いする父さんを前に、日ノ宮さんは視線を右往左往。余計に混乱するばかり。


どう考えても、困っているのはこっちのほうだ。


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