自作自殺

七瀬空

1話_死ぬ主人公

 「このわからずや!」

 バンッーー。平手打ちが入る。


 これは世界の全人類への、復讐だ。




 「大丈夫か?また親に虐待受けたのかよ」

 「んまぁな」

 傷の入った頬をさすり、自分が学校にいることに安堵を感じながら言葉を溢す。

 相手に言っていると言うより、自分に言い聞かせているようにも思えてしまう。

 「なんか協力することがあればするぞ」

 「協力すること...か」

 今横にいる人物は唯一の理解者、長野正樹(ながのまさき)だ。

 みんなの人気者であり、良く頼りにされてある。

 .....そして僕は親からも、皆からも嫌われる少年だ。

 しかしだからこそ分からないことがある。なぜ、こんなにとっかかってくるのかだ。

 「ないならそれが一番いいんだがな」

 「してみたいことはある」

 「してみたいこと?」

 一度開きそうになった口を押さえる。

 なにせ今から言おうとしていることは普通な事ではない。

 「いや、なんでもない」

 こんなことしても意味はないとわかっている。

 そこまでバカではない。

 「言いかけたなら言えよ。何でもしてやるからさ」



ーー助けて。



 その一言が出なかった。

 虐待を受けている側からしてみればしてほしいことなど山ほどある。

 だが、言えないのだ。

 言うと巻き込んでしまう。それだけはダメだ。

 「言わないと伝わることも伝わらないぞ」

 「そうかもな」

 「あぁ」

 「じゃあ一つ聞いていいか?」

 「ん?いいぞ。なんだ?」

 「なんでお前はそんなに俺にとっかかってくるんだ?」

 「さぁな。なんでなんだろうな」

 「なんでも聞けって言ったのはお前の方だぞ?答えないのはズルいだろ」

 「まぁ強いて言うなら、気まぐれかな」

 「はっきりしないなぁ」

 無機物に近い生活をしてきた人間にとって深みのある言い方はただただ分からないものとなる。

 「.....それとは別に、あるだろ」

 「.....」

 突然、切り出される。その言葉はじっくり心を突き刺さる。

 「大当たりか。教えろ。なんでも手伝ってやるからさ」

 「.....じゃあ、俺を殺してくれ」

 「は?」

 「俺が自作自演で自殺したふりをするからその手伝いをしてくれ」

 「ははは」

 「な、なんだよ」

 急に笑い出した正樹を見つめ、不思議がる。

 「面白そうだな。それ」

 「おもしろ...そう?」

 「あぁ。面白そうだな」

 なにがなんでもおかしい。こんなことを聞いて面白いなど、常人の答えじゃない。

 冗談だとしても、度がすぎる気がする。

 「それ、してみるか。お前が本当にしたいならな」

 「お前、どうかしてんじゃないのか?」

 「してるかもな。実際、お前と関わってるし」

 「だな。俺と関わると周りから変な目で見られるのに、仲良くしてるのなんてお前くらいだ」

 「気まぐれってこわいな」

 「本当に気まぐれなのか...??」

 「.....」

 ふふふっと不敵な笑みを浮かべる。

 


 卒業式目前の冬、2人は"1人"になろうとしていた。

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自作自殺 七瀬空 @IdeoDESU

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