エピローグ


あの死闘から数日が経った。

私は傷の治療の為に何度目かの入院生活をする事になり、ダーウィン空軍基地から南へ少し離れた軍の病院にいた。

時折空軍の幹部が面会に来るけど、私はその都度驚かれた。


「まさか、我々が全力を出して落とそうとしていたパイロットが少女とは・・・・」


面会に来たのは幹部だけでなく、私が一度落とし、難を逃れ生き延びたパイロットもいた。

最初、”お前がパレンバンのあの2機の一人か”と聞かれて、私は身構えた。


「いや、俺は別にお前の命を取りに来たわけじゃない」


「・・・では、どうしてここに」


「賞賛を送りに来た。聞けば、たった4ヶ月で60機近く撃墜してるそうじゃないか」


彼はそう言うと、私へ手を伸ばしてきた。これは・・・握手を求めてるのかな。

横に座っているライアーへ目をやると、うんと頷いた。


「俺は元リアストラ空軍第4航空師団第31飛行隊”スコーピオン隊”の隊長だ」


「スコーピオン1か・・・。よくもまあ”小国の雑兵”と見下してくれたなぁ」


ライアーが立ち上がると、彼へ近づいていく。

何か怒ってない・・・?


「ライアー、ストップ!」


私は少し嫌な予感がし、ライアーへ制止をかける。

でも予想は外れた。


「あの戦術は見事だった。だが俺達の技量が上だったな」


「ライアー・・・お前、まさか黒鷲か?」


「俺はライアー・フィリベルト。傭兵をやってる。よろしくな」


ライアーはそのまま私より先に彼と握手をした。こちらへ視線を向けている事から、見本を見せたかったらしい。

私も手を伸ばし、彼と握手をしようと試みる。


「私は霧乃宮由比。パレンバン基地の42番隊と呼ばれる部隊に所属してた。よろしく」


「ユイ・キリノミヤか」


彼と話を進めていくうちに、彼の部下のスコーピオン3とスコーピオン4が殉職したという話が出てきた。

スコーピオン3は実戦配備2ヶ月の若く血気盛んな性格で、スコーピオン4はそのお兄さんだったと。

私は自分を責めそうになったけど、それは違うんじゃないかなって思うようになっていた。


「・・・彼らの墓は?」


「ああ、あるさ。でもまだ傷も癒えてないだろう?俺が言葉を伝えておくよ」


「じゃあ・・・」


私は少し考えた後、その言葉を口に出した。


「そうか。伝えておくよ」


「お願いします」


やがて彼は病室を去った。

彼らとの戦いの直後、私は右手を見つめていたのを思い出した。


「ライアー。私はこの戦争を終わらせたい」


空の戦いを経ていないとしても、私は彼と握手を交わせたかもしれない。

それなのにどうして、私達は争うのか。人間は仲良くできるんじゃないのか。

人々が信じあえば、言葉を交わせば、・・・ううん。どうすれば・・・。


「でもそれができないのも人だ。いつ実現するかわからない本当の平和の為に戦っている。それが俺の考え方だ」


「そう。由比、覚えてる?私の言葉」


―戦争が無くなれば、軍隊も縮小させられる。


「まだまだ戦争は続くかもしれないけど、きっとこの戦争が終われば・・・世界は変わっていくよ」


ナールズが加わり、それをはじめとしてルーガンやそのほかの国と、対立する扶桑やアスタリカ、リアストラ。

先進国同士が争っているこの戦争が終われば、本当に戦争は無くなっていくのかもしれない。

”かもしれない”だけど、私もライアーと同じようにこの世界の未来を創っていこうかな。


「それじゃ、俺はしばらくアスタリカへ行ってくる。契約更新の為にな」


そっか。ライアーは傭兵だから、民間軍事会社勤めなんだっけ。


「ありがとう戦友。またな」


ライアーはそう言うと、微笑んでこちらを向いていた。


「うん。ライアー、・・・好きだよ」


私が小さく呟くと、友香の視線がすごく気になった。

顔を赤らめて”ふおおおおお!?”と唸りながら頭を抱えていた。


「由比結構大胆!」


「そ、そう?」


そのまま二人笑い合うと、空を見上げた。

私は、人々の信じあう未来を夢見て空へと舞い上がる。


群青の空へと。








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