寡黙メイドのお留守番

白い黒子

縄跳びをする

「何をしておられるのですか」


 小学生の凛子は、屋敷の広い庭で縄跳びを持ち出し何やら練習をしている。


 洗濯物を運んでいる途中、メイドの格好をしていたセラは暖かい光が差し込む縁側から声をかける。


「今度、体育の授業で使うから長さを調節してたの」


「へぇ」


「見てて!」


 セラは洗濯物を置き、縁側でペタリと正座。


 凛子は縄跳びを始める。


 トントン ピュン。 トントン ピュン。計十回。


「どうかな? ニワタリ 驚くかな!?」


 輝いた目でこっちを見てくる。ニワタリとはこの屋敷の主人である。今は任務で家にいない。


「全然ダメです。誰も驚きません」


「えぇ〜!」


 即否定。


「三重跳びぐらいじゃなければ・・・・・・」


「三重跳びぃ?! まだ二重跳びもできないのに!」


 凛子は膝から崩れ落ちる。


「あの人のことです。凛子さんがやったことに対してなんでもかんでも褒めますし、なんでも可愛いと叫ぶことでしょう。ですが、驚きはしないはずです」


「じゃあ、どうしよう」


「とりあえず、今の トントン ピョンというリズムをトン ピョン というリズムで跳べるようにしませんか?」


「えっ? これが普通じゃないの?」


「私の知る限りでわ・・・・・・」


 セラは、縁側から出て、スリッパを履き庭へ出る。


「少し貸して貰えますか」


 凛子から黄色の紐の縄跳びをもらう。


 セラはトン ピョンのリズムで跳ぶ。


「おお〜 トンピョンだ。 ねぇセラトンピョン。二重跳びは出来る?」


「その呼び方はよしてくださいな」


 セラはトン ピュンピュンとキレのある二重跳びをする。


「わぁ〜セラトンピョンピュン先生だ。是非、二重跳びのコツを教えて頂きたいです!」


 凛子は深々と礼をする。


「ちょっと実在しそうな名前になっちゃってるじゃないですか。それに、二重跳びはまだ早いのでわ?」


「ニワタリをびっくりさせてたいの!」


「左様ですか・・・・・・」


 渋々、セラトンピョンピュン先生は凛子が跳ぶのを観察して、それっぽいアドバイスをしていく。


「(正直なところ、自転車のように本人のセンス次第なところがありますからね、私のアドバイスが成功に繋がるとは思えない)」


 ベチィ! 凛子のスネに縄が当たり、赤い線が残る。


「あああぃ!」


 凛子悶絶


「大丈夫ですか!」






「只今、ただいま〜って何やってんだ?」


 間も無くして、ニワタリが帰ってきた。


「頭を冷やしてるのです」


「まるで、ボクシング選手みたいな冷やされ方だな」


 セラは半ベソをかいている凛子のスネいっぱいに、氷水が入ったビニール袋を当てている。


 ニワタリは足元に落ちている縄跳びを見つける。


「あぁ、分かったぞ。縄跳びで失敗したんだろう?ハハッ、可愛いな」


「ほら、凛子さん言った通りでしょう」


「あぁ悔しい!」


 凛子はもう一度縄跳びを掴み。


「見ててよニワタリ! 二重跳びよ!」

  

 ピョン ベチィ


「ああんっ!」


「惜しい・・・・・・」


 スネは超えたが後頭部に当たる。


「まだまだ、だなぁ〜」


「じゃあ!ニワタリもやってみせてよ!」


「すまねえが この縄の長さじゃ無理だな。かわりにセラに頼みなよ、まぁ跳べるか分かんないけどな」


 ニワタリはニヤニヤしながら、セラを見る。


「ふっふっふ、セラトンピョンピャン先生は凄いんだよ。舐めてかかってたら、怪我するよ!」


「セラトン?なんじゃそら?」


「凛子さん 正しくはセラトンピョンピュンです。いや、なんで私が訂正を・・・・・・」


 セラは嫌々縄跳びを受けとり、例のごとくトン ピュンピュン。


「おお〜」


 ニワタリは目をまんまる。 凛子はドヤ顔。


「もう、いいですか?」


「いいや、セラ。もうちょっと高く飛んでみろ」


「こうですか?」


「うーん。もう少しだ。もう少しでパンツが見えそ」


 ビュン!!


「ああんっ!」


 縄を最大限にしならせたセラの一撃。

 ニワタリの顔面にクリーンヒット。その場でうずくまる。


「 さて、変態も帰ってきたことですし、凛子さん、

 ご飯の準備しましょうか」


「変態には、ご飯抜いてもいいんじゃない?」


「そうですね。きっと彼も抜かれるのが好きでしょうから」


「お・・・・・・お前、それは言い過ぎ、じゃない?」



 本日の留守番はこれまで。









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寡黙メイドのお留守番 白い黒子 @shiroi_hokulo

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