第4話 初陣②

「よし、全員集まったな、これから作戦告知を開始する」

ステージとスクリーンしかない殺風景な部屋に声が響く。

「映せ」

スクリーンには一面が木に覆われた俯瞰図が映し出される。

そこは…この辺だな…

「以前から、敵の穴倉を捜索していたが、一つとして見つかることはなかった…が、最近の奴らが襲撃してきた際に用いたと思われるコースをそれぞれの襲撃事に何パターンか予測し分析したところ、やっと尻尾を掴む事ができた」

黒地の軍服を着た老兵がステージ上でスクリーンを指すと画像が拡大された。

安物のパイプ椅子の座り心地は正直褒められたものではないので早く終わらせてほしい。

「ここと、ここと、ここと、ここ、この付近に奴らの拠点らしきものの影を4つ発見することができた」

スクリーンをよく見ると、木々の間からわずかに、不自然な、自然界にはない筈の直角が見える…気がする。

天幕か?

「ここから判断するに拠点が近距離に乱立しているか、まぁまぁ大きな拠点であるということだな」

ふーん…

今回この狭苦しい作戦会議室に集められたのは第一重装歩兵部隊全員。

つまり大体20人位だ。

その拠点はこれ位いればまぁつぶせるとふんだ人数。

鎧を着た奴が20人だ。

普段に比べたら、これ位の規模の戦闘なら半分くらいだろう。

「で、諸君らにはこれをつぶしてもらうわけだが…今回はやっと尻尾を掴めた相手であるということもあり、今までのすべての襲撃を含めて陽動の可能性もなくは無い、なのでいつもより少し大規模で不足の事態にも対応しやすいようにさせてもらった」


成程ね…。罠かも知れないとは分かりつつも調べないわけにはいかないから慎重にその罠にかかりにいくわけか。


「5分隊の内、物部分隊を作戦地域にて待機とし予備兵力とする、その他中田分隊、村上分隊、井上分隊、三浦分隊はそれぞれ南、西、北、東に展開、突入し、敵対的存在がいた場合即刻制圧しその場を制圧せよ、作戦開始時刻は明日の1400、昼飯の後無理が無いように攻める、激しい抵抗が予想されるが可能な限り捕虜を取れ…分隊はそれぞれ作戦開始時刻の30分前には格納庫に集合すること…以上が明日行われる敵基地と思われる地点への強襲作戦である、何か質問はないか?」


 今回の作戦もどうせうまくいくだろ。いつも通り、一方的に殺して相手を恐怖におののかせるだけだ。はっきり言って1分隊でも十分すぎる。


 「質問が無いようなのでこれで作戦会議を終了する、それでは健闘を祈る」


 作戦司令官が敬礼をすると同時に、一斉に場の全員が立ち上がり返礼する。


 余裕だな。あとは、あの新人くんをどう教育するかという事だけが問題なわけだが…。


 作戦会議が終了し、解散の合図が出されると、直ぐに新人くんの横に滑り込んだ。この駐屯地における新人は珍しく、その為、ほっとけば好奇心から近づく者やいびりにくる者が多く近づいてくるだろうからな。


 それでも、俺ガードを気にせずに突っ込んでくる者は少なく無い。


 「おぉ!新人じゃ無いか!名前なんて言うの?」


 来た。国広の声が、作戦会議室を出たあたりで響く。村上くんにむけて発せられた声であることは容易に想像できる。決して俺に向けたものでは無い。だが、村上くんをいきなり、高レベルの聞き流しスキルが求められる男と熱い一方的会話をさせるわけにはいかない。


 「国広、元気そうで何よりだよ、俺の部下の村上君だ、初めてのブリーフィングで緊張して腹が痛いらしい、失礼するぞ」


 さぁ、こっちに来るんだ村上君。ぐいぐいと肩をひっぱってやるからな!そんなきょとんとしないでくれ、そいつに捕まると大変なんだよ...。


 「あぁ、村上君っていうんだ、良い名前だね!こんなところに新人が来るなんてすごい久しぶりだからつい興奮するね!俺もはじめてここに来たときは凄い緊張してさ、気にすることないよ誰でも緊張する、あれは大体今から6年前だったから、ちょうど16だな、戦地生まれだったから戦場以外に馴染めなくてね!紛争にちょっかい出しながら渡り歩いてたんだけど、気づいたらここに入ってたんだよ!不思議だよねぇ...金払いも大して良くないのによ、多分だまされて入ったんだ!絶対そう!」


 驚いた。こいつ、こんなに執念深かったか...?後ろからこちらにぴったりとくっつきながら話してくるぞ。


 話すと自分語りが止まらなくなる。これは、もう病気なんじゃないか?優しく受け入れてやるしか解決策はないのか...。しかし、しかしだ。今初陣前の村上君をあんまり困らせる様なことはしたくない。


 「あっ!おれもヤバいなぁ!腹がいてぇよ!!これは急がなきゃなぁ!!」


 いくよ!村上君!止まるんじゃない!走り続けるんだ!


 横目で後ろを見ると、流石に追いかけてこないようだ。手を振って、後でと言っている。そう、同じ分隊だ。


 なんとか、自分の部屋まで村上君を連れ帰ってくる。


 「ごめんよ~村上君、あれは国広っていって同じ分隊なんだ、だから明日一緒に戦う分隊員...自分語りが止まらなくなることを除けば、良いやつなんだ、優しくて頼りになるから..さ」

 「はぁ...」


 本当に根は良いやつなんだよ...めんどくさいさいだけでさ...。さて、作戦開始は明日だから...


 「村上君、発着早々本番だなんてついてないけど...まぁ明日だから、今日はもう休んでいいよ、自由、フリーダム」


 時計は17時を指している。そういえば、施設を回ったり、ブリーフィングだったりでなんだかんだで飯を食い忘れてたな。本土でこれをやろうものなら...さて、どうなんのか...。


 「ただ、一応名目上、消灯は22時だから、それ以降は騒がないでね」


 巡回も来ないから騒がない限り、何をしようとフリーダムなのだわ。ふぅ...軍としてちょっとどうなのかね...まぁこの緩さがなきゃやってけないがな!!


 「了解しました!!」


 村上君は俊敏に敬礼する。先程、指摘されていた敬礼をこちらの仕様にして。やっぱり学習能力が高い...高学歴だ...。


 「君はしばらくは俺とこの部屋を共同で使うことになる、正直広くて困ってたんだ...多分、俺たちが夕飯を食堂で食ってるとき辺りに適当な机とロッカーとベッドが運ばれてくるから心配しないでね!」


 村上君...。容姿もよろしい。きりっとした目。程よい筋肉量。長く綺麗な指。何を着ても似合う男だ。女装したら、筋肉が目立つからそれだけは無理だろうが、それ以外なら大抵いけるぞ...。容姿端麗学業優秀じゃぁ、もう勝てるところないな...。こりゃ、こっちがルームメイトに委縮しちゃうかもなぁ...


 「上官と同部屋で光栄です!」


 「ありがとう...君は人を持ち上げるのが上手いね!」


 上官...?名前で呼んでくれてもいいのよ...?...


 「そういえば、まだ名乗ってなかったな...順番が前後して済まない...俺は桜だ」


 「了解致しました桜中尉!」


 「中尉…?あぁ…肩章を見たのか…階級で呼ばれるのは久しぶりでな…そうか、そうえば中尉に昇進してたな…」


 「こちらで昇進なさったのですか?」


 「ん…?あぁ…そうだな、ここでは取り敢えず何かしら成果を出せば肩につける階級は上がる…かといって、基本の仕事が変わる訳でも給与が上昇するわけでも無い…まぁ分隊の指揮には流石に関わってくんだけど、いかんせん人が少なくてね…指揮する階級だろうとここのトップの大佐以外はみんな一兵卒みたいな現場仕事ですよぉ~」


 

 

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銃と鎧 蛇いちご @type66

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