第3話 初陣①

さて、饒舌な木村を後にし私と新兵の2人は訓練室に向かう為に廊下を歩く。

左側の窓が取り入れる光によって正午の廊下は白と黒の模様を出現させる。

「で、何だっけ?」

村上くんに先ほど何かを問われたのを思い出しその内容を問う。

「どうして、わざわざ剣を用いて戦う訓練をしていらしゃったのですか?」

そう言われて、先ほども言われたのを思い出した。

「それはな、銃弾は確かにあの鎧を貫かないが、あの鎧と同じ材質でできた剣や刀なら貫けるからだ」

「ちょっと待ってください、それは理由になりません、それならその素材で弾頭を作ればいいだけです」

「そうその通り、弾頭を作れればいいが未だに作られていない、何故かは知らない」

そこまで、言って自分で少し違和感を感じた。

「あーちょっと待て、1段階飛ばしたな、まず敵があの鎧を持ってるかもしれないという前提を知ってないと…お前よくわかったな」

鎧の話もまだ少ししかしていなく、ちょっと戦っている風景を見ただけで、事情を考察した新兵に畏怖する。

凄まじい洞察力だ。

歩きながら、村上くんは、いえいえと謙遜する。

さぞ頭が良いのだろう。世渡りもうまそう。きっと高学歴だ。

「そう、お前の考えた通り敵は何故かこの鎧を持ってる恐れがある、俺はここに来る前は支那前線にいたんだが、そこでいてな、時々でる、凄まじい金持ちが裏から買ってるんだろう、意外とガバガバなんだなきっと」

「成る程、だからそのような状況になっても最小限の出費で対処できるように近接武器を用いる必要があるのですね…ところで、最初、近接武器を持ち歩いてない時はどう対処していたのですか?」

「隙間をこれでもかと攻める、攻めれる限り攻める、それで何とかした」

「それにしても迷惑な話ですね、国内では命よりも重い秘密事項みたいに扱ってるくせに外部には漏れているなんて、なんなんですかね」

本当にねぇ。とてつもなく迷惑な話だ、作戦につき携行する装備は普通、短期の急襲作戦だったりしたら、弾薬、小銃、応急処置器具類、通信器具、ケミカルライト、3色の発煙手榴弾と場合によっては暗視装置、そんな物だ。

なのに、外部に鎧を漏らされたせいで腰に剣を挿しとかなきゃいけない。動くのに邪魔だ。あとついでに拳銃も持たされるので、これは一応接近戦や室内戦闘が多いからという理由はあるのだが、同じベルトに吊られた剣と協力し腰に負担をかけてくる。

よもや先人もこんな思いはしていないだろうと思う。

剣は儀じょう隊のサーベルのようなものではなくて、まぁこれも個人の出費だから自由に決められるんだけど、もっと刃物をもった相手との戦闘を想定した物が必要とされる。

そうなったら、必然的に長くなり重くなる。

鎧自体も決して軽くない、前測った時は確か12キロだったかな、しかし着慣れるとあまり重さを感じない。


つまり、誰かの侵し続ける間違いのせいで携行品がひどく増え負担が増しているのだ。


「なんとかしてくれないかね.…」

そうぼやきながら廊下を進んでいると目的の部屋が見えてきた。

「よし、ここが最後に紹介する場所だ、教練室だ」

村上君はきょとんとする。

「先程の室内演習場と何がちがうんですか?」

真っ当な疑問だ。人数の少ないここで二つも室内演習場を使いつぶすなんてあまり考えられない近接戦闘訓練は余所でやるしね。

しかし、ちゃんと分かれているのは理由がある。

先程とちがってさび一つない綺麗なグレーの扉をそっと押して開ける。中は、2つの窓と漆喰の壁、板張りの床という殺風景な様相だが、その中でひときわ目立つ物がおいてある。


黒地に、等間隔にひかれた白い斜線、所々墨がたれたかのように不規則な赤い模様。真っ直ぐ伸びる鞘だ。そして、そこから漏れ出る銀の柄と握りやすく細身の、黒く薄いゴムテープの巻かれた、持ち手。


それは剣であった。


どうだ?驚いただろう!?

そう思って村上くんの方を見ると、予想に反してきょとんとした顔をしていた。

あらら?


「これは…剣ですね…」

見るからに困惑している。

「そうだ、剣だ」

それ以上言う言葉はない。そうだとしか言いようがない。

だが、もう少し何かリアクションを取ってくれてもいいのではないか。

まぁ良い。ここに連れてきた目的を果たそう。

「これは、ただの剣ではなくて、さっき話していたあの鎧と同じ素材でできた剣だ」

やはり、鞘に収まっているだけでは少し派手な剣にすぎない。これは抜いて見せる必要がある。

靴を脱ぎ、教練室に上がる。マットを踏み、自分で、わざわざ部下が来るという日に驚かせたかったが為に、置いた剣に近づき手に取る。

こっちにくる様に促して、村上くんを近くに寄せる。

「見てろよ」

そういって派手な鞘から剣を一気に引き抜いた。


やっと村上くんは驚いた様だ。目に見えてわかるほど驚いた表情をしている。


引き抜かれた剣は照明の光を浴びて、凄まじく赤い光沢を、その暗い銀色の刃に落としていた。


「この剣もあの鎧と同じ素材なんだが、普通の剣とは一目で区別がつく、光の曲げ方とか特殊だからな」

その時。

駐屯地内に張り巡らされたスピーカーからマイクが起動した時の小さなノイズが聞こえた。

〜、至急作戦連絡につき第一重装歩兵部隊は作戦会議室まで集合せよ、第一重装歩兵部隊は作戦会議室まで集合せよ~

新兵にこうも早く初陣を体験させるのもこの基地の特徴だ。

それは説明したっけ?

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