第2話 挂甲
村上君に対して、打たれても傷一つつかない兜を見せてもイマイチ反応が悪いので机の上に転がった綺麗に潰れた弾頭をつまみそれを顔の前に持ってきた。
「すごいだろう?コンクリートに打ち込もうがこんな綺麗に原型を残さない、つまりだこいつは弾頭が当たると同時に同じぐらいの力を弾頭に対して与えて相殺してるんだ」
そう言うと、村上君はやっと驚いた顔をしたが、やがて悩ましい様な顔をした。
「でも、基本的には物体が他の物体に対して力を与える時にはその物体からも同じ力を与えられるので、それは違うのでは?」
そう言われたが、よくわからない。
「そうなのか?知らなかった、無学でな」
そう言って、バツが悪くなったので体裁を取り繕う為に咳払いをしてから口を開く。
「まぁ、取り敢えず、この様に俺たちの商売道具はどうな攻撃も通さない、これは弾丸で確かに他の物でも防げるが、そうではなくて例えば122mmの鉄鋼弾であろうが通さない、更には物で無くとも害のあるものは絶対に通さない、熱とか衝撃とかの様なな」
村上君は心底驚いた様な表情をした。どうやら、感情がわざとらしいほど顔に出る質らしい。
新兵君は兜から目を離し机の右奥の鎧立てに立てられた鎧をまじまじと見つめた。
「一体、何なんですか?これ」
「わからない、一切の説明はないし、俺が従軍し始めた頃には既にあった」
そこまで、言って少し考える、説明すべきかどうかを判断する
「ただ一つ言えるのはな、これは生き物だ」
言っておかねばならないと思った
「生き物ですか?鎧が?加工されてるのに?」
そうだ、俺も同じことを思っていた
「これはな、生き物を加工している、鎧はな自分で買うものなんだよ、だからある程度デザインとか色々融通はきく、ただ製造加工は絶対に見せない、仲介人を通してその仲介人が依頼を受けそれを別の仲介人にって感じで本がわからない様になってる」
「ならば、どうやって買ったのですか?」
「それぞれの県ごとに必要なやつにだけ人を通して誘いが来る、バラしたら殺すという脅し付きでな」
「はぁ…」
村上君は続ける
「それで、どうして生き物だと思うのですか?」
「触ってみろ」
村上君は鎧に近づきそっと手を触れる。
手を触れた瞬間表情が一気に曇った。
驚きのあまり声が出ない様だ。
「どうだ、びっくりしただろう、そいつは心臓の鼓動の様に動いている、何を送り出しているのかは知らないがな」
村上君は頷いた。
新兵君の為に施設紹介を、回りながら紹介する。射撃場、食堂、娯楽室、火薬庫、格納庫そう右回りに紹介した。次はどこを紹介しようか。
よし、
「室内近接戦闘演習室に行こう」
部屋に近づいただけで金属の弾ける音がする。激しくぶつかり合う金属の音。それと、男達の息遣い。マットに足を擦る音。
どうやら、先客がいる様だ。
「ここが室内近接戦闘演習場だ」
そう言って所々錆びた汚い、グレーで両開きの扉を開く。
一気に埃っぽい様な匂いがする。
中には二人の男がいた。
銀の鎧を着た男達が、刃の潰された両手剣で、激しくぶつかり合っていた。
一方の男がもう一方に圧され足が浮いた、そこに一振り。
しかし、体制を崩した男は瞬時に膝を用いて着地し体制の低いままもう一方の空いた腹に打ち込んだ。
「これが、俺たちの戦い方だ良く見とけ」
暫く、その戦いの様子に見惚れていたが、新兵君は見ているうちに好奇の目が薄れてきたので他に移った。
廊下を渡っている時、村上君は質問をする。
「どうして、剣で戦っているんですか?相手に鎧がないなら銃の方が有利ではないですか?」
「あぁ…それはな」
そう言いかけると、前方から何者かがこちらに向かってニヤつきながら近づいてきたことに近づいた。
「よう、お前が新兵の教育役だとはな、その子が可哀想だ…」
いつ会っても無礼な同僚だ。
「紹介するよ、こいつは同僚の木村だ」
私がそう紹介すると、木村は私の隣で敬礼をする村上君をまじまじと見た。
「いやぁ、そう固くならないで、俺に敬礼なんていいよ、それにここではその敬礼は違う」
木村はそう言うと、足を揃え右手の親指を下にして手のひらを見せる敬礼をやってみせた。
「こうだよ、こう、謀反、暗殺の企てはありません、武器は持ってませんって証明するためのもんだから…こんなんもまだ教えてないとは、やっぱり新兵がかわいそ〜どやされでもしたらどうすんのよ」
「先に施設紹介をしとこうと思ってな、間違ってても問題ないし」
「いやいびるやついんだろ、かわいそうだろ」
そう言われて、それもそうだなと思ったが、それを予想できていても気にせず正すのが面倒だから教えなかったであろうことが容易に想像できた。
木村は私の至らなさを攻めるのに飽き村上君に向き直った。
「君はえっと…」
「村上です」
「そっか、村上君、うん、よろしく」
微笑んで村上君の肩をポンポンと叩く。
村上君はどう反応したら良いのかわからずに困ってしまっているのか、固まってしまっている。
不憫に思ったので、木村を止めた。
「やめろよ木村、俺の部下を困らせないでくれ、お前に部下がついたら好きなだけやれば良いだろ?」
そう言われて、木村は自分が村上君を困惑させていることを、恐らく初めて気づいたのだろう、ハッとして肩に置いた手を優しく引き抜いた。
「そっか、困らせちゃったか、ごめんな、俺鈍くて、そこらへん気づかないんだは、ははは、まぁ、だから遠慮なくそういうの言って、コミュニケーションは大切だし」
こいつは人と話す時、いつも話の要点がわかりずらくその癖やけに長ったらしく喋る。
それは、本人に一度指摘して直そうとしていたのだが結局矯正することはできなかったので、こう言うやつだと諦めるしかないのだ。
「ところで、君香川生まれ?なんとなくそんな気がするんだよね、分かるよ香川でしょ?ほら、俺の勘は当たるんだ」
ごめんと謝ったばかりの男は同じ行動を繰り返した。
先ほどと同じように新兵は困り固まっている。
「悪いな木村俺と村上は急ぎの用事があるんだ、ほら行くぞ」
そう言って村上を引っ張り木村の横を無理やり通り過ぎた。
「そうか、じゃあ、なんかあったら俺に相談するんだぞ、遠慮するなよ、俺は友達だと思って良いから、じゃあね村上君、またね」
通り過ぎる間、木村は饒舌に話しまくったのだった。
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