Ⅴ ネイバーズ3
殺風景な通りを歩いて行く。
思っていたより人通りが少ない。
注意深く辺りを見ながら歩いていると、
人気のない路地を見つけた。
「隣町にはユキさんの聖地があるんです」
「この街に戻ってこなくても、その聖地には戻ってくるんです」
ユウちゃんはそう言って「アンカー」の場所を教えてくれた。
この辺に違いないと思うのだが。
確信は持てないのは、もともと土地勘がないのだから仕方がない。
恐る恐る路地に入ってみる。少し先で行き止まりになっていた。
地下に潜る階段の上に「イカリ」マークの看板。
間違ってはなさそうだ。頭上を見上げてから、階段を下りていく。
「一度行ったきりで」
「ちょっとコワい場所にあるんです」
なるほどね。
まだ日が落ちはじめたばかりなのに、怪しい雰囲気は十分だ。
そもそもこんな時間に空いている店なのだろうか。
ライブハウスなら、リハとかあるので誰かはいるだろう。
地下に降りると重いドアが半開きになっていて、中から音が漏れてくる。
覗き込んでみると、ドリンクカウンターが見えた。ステージはさらに奥のようだった。
営業前なのは明らか。それならその方が都合がよい。
ふらりと中に入ってみると、背中から声をかけられる。
「すいません」
「まだなんですよ」
振り返ると小柄な女の子だった。
「それとも関係者ですか」
「ここにユキさんていう人、いるかな」
「スタッフですか」
「いや、そうじゃなくて。弾き語りとかやる人なんだけど」
「今日は出演してないと思いますが」
「ちょっとお待ちください」
小柄な女の子はそう言って、多分ステージのある奥の部屋に入っていく。
しばらく待っていると、女の子が髭面の男を連れて戻ってきた。
男はこっちを見て、見切ったような笑みを浮かべる。
「ユキさんに何か。知り合いの方ですか」
「ギターが上手いって人に聞いて」
「今新しいバンドのメンバー集めていて」
「誰に聞いたんですか」
投げつけるように言葉を浴びせられる。
「ナイトスウィーパーズのユウちゃんて子なんだけど」
髭面の男がガン見してくる。
「あの子ですか」
「しばらくは帰ってきませんよ」
「ここには戻ってくるんですね」
「それより、あの子に言ってくれませんか」
「連絡待ってるって」
「何度も出演依頼していて」
小柄の女の子が小声でつぶやいた。
Nを捜して 阿紋 @amon-1968
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