二周目の後悔
春風月葉
二周目の後悔
死にたくない。まだやり残したことが山ほどある。伝えたいことだってたくさんあるのに。そんなことを思いながら、別に特別なことなんて一つもなかった冬のある日、私は一度死んだ。しかし、それから二年と半年が経ったある夏の雨の日に私は再び目を覚ましてしまった。
私が土の中で蛹のように長い眠りについていた間も世界は不都合なく時間を進めていた。そんな世界にとって私という死んだはずの人間が存在していることがどれだけ世界にとって不都合なことなのか。私は理解できていなかった。
そこはあのまま死んでしまうべきだったと思うほどの生き地獄だった。
死ぬ間際にはたしかに彼女の幸せを願ったが、最愛の人が他人と結ばれているのを目にしたときにはどうにかなってしまいそうだった。私の命は彼女と彼女の選んだ他人の幸せのための金に換わるはずだったのだと理解した。身体の弱かった母は私の知らないうちに死んでいた。父は私のことを覚えていなかった。仕事はなくなっていた。親しかった友人や同僚に連絡をしてみたが誰一人反応はなかった。
私は生きていたが間違いなく死んでいたのだ。世界が私を拒む。大人しく死んでくれ、静かに忘れさせてくれと訴えかけてくる。
長い眠りから目覚めてもう六日が経った雲の一つもないよく晴れた日に、私の瞳からは大粒の雨が降った。二度目は短かった。一度目のときには多くの後悔があったが今回は違う。その日、私は本当に死ぬことができた。
二周目の後悔 春風月葉 @HarukazeTsukiha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます