135 仲間と策を練る


 翌日の午後、ぼくは五人の仲間たちと本能寺で落ち合った。

 書院の中で、いつものように車座になっている。

「六角が家中を立て直し、南近江にて挙兵しております。浅井、朝倉と呼応したものと思われます。至る所に放火し、やりたい放題にございます」太田牛一が口火を切った。

「すでに、美濃へ通じる道は閉ざされた、と考えてよろしかろう」


 永禄十一年(1568)上洛の際、ぼくに敗れ逃亡した六角が旧領内で挙兵したのだ。長政の所領と六角の旧領は琵琶湖東岸一帯であるから、美濃へ向かう近江街道が完全に遮断されたことになるのだ。


「おそらく、殿を京に閉じこめ、浅井、朝倉と共に、岐阜城を攻める算段にございましょう」

 帰蝶がそう付け加える。


「権蔵は、いかがしておる? 傷は重いのか」

「権蔵は、近江中山道の百姓の家で、養生しておるようでございます」

 牛一が答える。

「一日も早く、岐阜に戻らねばならぬ。権蔵と、繋ぎをとり、甲賀の者どもを本能寺に集めるのだ」

「それは、わたしめが」

 蜂須賀小六が答える。


 帰蝶が車座の中に絵図面を広げる。

「さて、何から手をつけるか? それぞれの考えを申してみよ」

 ぼくは琵琶湖東岸を扇子の先で示しながら言う。


「第一に、岐阜に戻る算段を考えねばなりませぬ。岐阜城下が戦場になっては、士気にも関わってきますし、次の手を打てませぬ」珍しく、前田利家が提案した。

「近江路の南を迂回する道を捜さねばなりませぬ」

「イヌよ、そなたが捜してみよ」

「はっ」


「同時に、浅井、六角を牽制しなければなりませぬ」牛一が琵琶湖南岸に人差し指を置いて言う。

「ここ、宇佐山城、それから、ここ水原城、長光寺城」

 さらに東岸に沿って、指先をずらす。

「水原からは、南に位置する石部、長光寺からは南西にある三雲を牽制いたします。さらにその北、百々屋敷、安土砦に、それぞれ北と南に備えて兵を配置します」


 さすが牛一である。理に適っている。

 ぼくに、適材適所の妙案が浮かんでくる。

「どこが、激戦になると思うか」

「ここでございましょう」牛一が即座に指さした。

「ここ、長光寺城でありましょう」

{そうか、それでは、そこに勝家を向かわせよう。それから水原には佐久間信盛を配置する。両名とも腕が鳴っておるであろう」


「殿、朝倉、浅井との戦いに備えて、火薬を調達しなければなりませぬ。さきの金ヶ崎で、多くを失ってしまいました」

「鉄砲か……」ぼくは呟く。

「サルよ、そなたは、今井宗久を知っておるな」

「はつ」

「宗久に、大量の火薬、煙硝の調達を依頼するのだ。できるか?」

「はっ、お任せを」


 翌日、ぼくは勝家と信盛を呼び寄せ、それぞれ長光寺、水原に兵を向かわせた。

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