77 信長補佐官制度を導入する 内輪の話でござる
正月の諸行事を終え、一段落したところで、ぼくは五人の仲間を書院に集めた。実は桶狭間の戦以来、仲間との交流がおろそかになっていたことが気になっていたのである。そこで、ぼくは考えた。大統領補佐官制度はどうだろうか、と。あくまでも、ぼくと仲間との内輪だけのことである。
いつものように車座になって、胡坐をかく。
「みんなに、それぞれ具体的な任務を与えたい。何をもって、われを補佐するか、話し合っておきたいのだ」
ぼくはそう話を切り出した。実は、ぼくは既に腹案を持っている。それを披露するまえに、念のために尋ねてみたのである。
真っ先に、帰蝶が口を開いた。
「そうですな。私たちは仲間でありながら、身分は様々ですからな。ウシ殿は吏僚の右筆でありますし、イヌ殿は旗本の馬廻衆。サル殿は小者でありましたし、ハチ殿にいたってはさすらい者、今もなお、殿の居候にございます」
「今日より、サルとハチは、われの旗本馬廻衆とするが、両名異存はないか」
木下藤吉郎と蜂須賀小六は、有難き幸せ、と口を揃えて言う。
「さて、われの仲間よ、これより、いかなる仕事をしたいか、申してみよ」
五人とも、腕を組んで考え込む。
「チョウは、どうだ」
「わたしは、形だけではありまするが、殿の正室にございますので、仕事と言われても」
「そうであった」ぼくは笑いだした。笑いながら、話を続ける。
「そなたには、内務補佐官を命じる。城内のすべてのことを取り仕切るのだ。そして、われに知恵を授けよ」
「はい。今までと、同様でございますな」
「それから、重要なことがある。銭じゃ、銭がなければ、戦が出来ぬ。銭の工面をしてもらいたい」
「畏まりました」
帰蝶はそう答えて楽しそう笑った。
「われは、今まで通りで、よろしかろう、と」
太田信定が腕を組んで自信ありげに言った。
「そなたには、その他に重要な任務がある。外交補佐官である。東には武田信玄、上杉謙信、西には、得体の知れないやつらが、うようよいる。これらを、戦にならぬように、丸め込むのだ。その方策を考えよ」
「はあぁぁ」
「サル、おまえは、どうだ」
「馬廻衆として仕えるからには、武芸の稽古から、始めたいと……」
「武芸は、ハチに任せておけ。おまえの取り得は、その顔と口ではないか。それを使って、武勲をたて、ねねを喜ばせよ」
「はあぁ」
「サル、おまえには、調略担当補佐官を命じる。これより、美濃一国の調略を命じる」
「ははっ」
「イヌよ、そなたは、どうだ」
「われは、戦場で手柄をたてれば、それで本望でござる」
「イヌよ、そなたには。われの親衛隊統括担当官を命じる。いつも、われの傍にひかえ、部下を指揮し、われを敵から守るのだ。できるか」
「容易きことに、ございます」
「さて、ハチそなたは、どうだ」
「われは、戦場で働くのが本望で、他には……」
「そなたには、大事な役目がある。甲賀の素っ破らを統括し、国内外の情報を集め、管理し、われに適宜伝えるのだ。そなたには、情報担当補佐官を命じる。まずは犬山城の様子を探るのだ。一益と権蔵が三河から戻ってきたならば、共に働くがよい。その後は、サルと協力し、美濃の攻略に務めよ」
「ははっ」
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