第3話 友達、追想、そして再会
母親に朝からお説教を食らったのは言うまでもないが、遅刻ギリギリだった為、早めに解放されたのは不幸中の幸いだった。
高校は三年生になると授業は必修科目と選択科目という形式になっており、必修科目以外に特に勉強したい科目が無ければかなり授業数を減らせるので、登校日数も少なくすることが出来た。
俺は極力学校に行きたくなかったので、最低の単位で済むように授業を選択していた。
タイプリープ?してきて目覚めたのは火曜日。
今日は10時半からの授業からだったので、比較的ゆっくりだった。
色々と思い出してきて、懐かしさが溢れてきたが同時に面倒なテストや宿題をまたやらなくてはいけないのかと思うと、早々にやる気が失せていた。
実家で目覚めてから数時間、千花と結婚していた人生は夢だったのか、それともタイムリープしてきたのかまだハッキリとわからなかった。
夢だったとして、現時点で出逢っていない人物があまりに多過ぎる気がする。
名前から出身地、職業、性格まで、夢の中で事細かに設定し、それを目覚めた時に覚えていられるものなのだろうか。
未来を当てることが出来たらタイムリープしていることが確定するのだが、十数年前のことを思い出せと言われても正確に思い出せる者は少ないだろう。
火曜は二コマしか授業が無かったので、お昼で帰れる。
久しぶりの授業は変わらず眠気を誘うもので、もう少し面白い授業を出来る教師が増えたら、日本はもっと発展するんじゃないかと思える程だ。
しかし…生の女子高生がこんなに近くにいると、精神衛生上宜しくない…。
俺はロリコンでは無いが、今は同級生なわけで…。
いや、でも感覚が三十路オーバーだから背徳感が…。
って、何を考えているんだ俺は…。
妻が自殺した後に、妻の親友を手篭めにして自殺に追い込む鬼畜。
あまりに非現実的なことが起きて混乱していたが、俺は畜生に堕ちたのだ。
本来これから歩む道は自分の快楽を優先し、女性を悲しませるような最低なもの。
せめてもの罪滅ぼしとして、千花一筋で生きることを誓う。
だからなんとか千花とクソ野郎の魔の手から守らないと。
「優作、お前聞いてんのかよ?」
高校の時、放課後はいつもの仲間たちと近所の花山グラウンド(通称花グラ)でたむろしていることがほとんどだった。
何をするわけでもなく、ただタバコを吸いながら下らないこと喋っていただけだ。
三年になってからは、授業の終わりの時間がバラバラになったので、全員集合みたいな日は少なくなっていた。
これから千花を探したりしなければいけないし、個人行動するのにもちょうど良かった。
「あぁすまん、だから今日は行かねーってば。」
俺に話しかけてるのは、入学当時からの付き合いの圭佑(けいすけ)。
俺は基本誰にも相談はしないし、何かあったら自分で解決する。
友達だからと言って、喜びも悲しみも共有しなくてはいけないなんて思わない。
少なくとも俺の問題は俺が解決する。
だが、助けを求めている者を見捨てたりはしない。
圭佑もそういうスタンスの奴で、俺に相談事はしないが、俺が何か考えているような素振りを見せると、必ずどうした?と聞いてる良い奴だ。
だから、俺もたまにその時抱えてる問題を話したりもしていた。
今思えば、多分親友ってやつに近かかったのかもしれない。
高校を卒業後、別々の道を歩んだ俺たちは自然と疎遠になった。
特に喧嘩をしたわけでもなく、嫌いだったわけでもない。
なんとなく、流れでだ。
それがまた俺達らしくて、悪い気はしていない。
今、再会してもすぐに当時のような関係に戻れると思っている。
「んで、今回はまた難しそうな問題を抱えてそうだな。」
流石の洞察力で、俺がこの状況に頭を抱えていることを見抜いたようだ。
十代でこの洞察力だ、この先どんな道を歩んだのか気になってきた。
今回のことが終わった時、もし未来に戻るのだとしたら連絡を取ってみようかな。
「ん、ちょいと難問でな。しばらくは花グラには顔出さないかもだ。」
俺がそう言うと、なぜか品定めするかのような目付きでじっと俺の顔を見つめる圭佑。
「なんだろう、昨日までのお前と違うと言うか…、凄みが増してると言うか…。」
ドキッとした。
こいつは俺の中身が変わっていることさえも見抜くのかと。
高校の時から十五年近く経っているのだから、多少の凄みは出ているのかもしれない。
なんかちょっと嬉しく思いつつも、なんて説明したいいのかわからなかった。
タイムリープしてきたかもしれないとか言ったら、とんでもない厨二野郎扱いされそうだし。
とはいえ、今回の件に関しては相談出来る者がいるのはアリかもしれない。
イレギュラー過ぎるので、自分だけではどうにもならない事態に遭遇することがあるかもしれないから、味方を増やしておくべきだ。
「実はな……」
俺は大筋を圭佑に話してみた。
よく考えれば、厨二扱いされたところで、今後の人生に全く支障がないと思ったのだ。
高校卒業後、それまで付き合いのあった連中とは全く会わなくなってしまったからだ。
当時の俺が携帯を持っていなかったっていうのが要因だろう。
今の若い子達はずっと繋がっていられる反面、断つことが困難になっているから可哀想でもある。
俺は人との関係を続けるのも終わらせるのも、自由でありたいと思う。
「…待て待て、普通に話を続けるな。夢の話か?それとも小説家にでもなりたいのか?」
至極当然のリアクションが返ってきたので、話を続けるかどうか迷い始めた。
理解してもらいたいと思って話したわけではないでの、話がこじれるくらいなら冗談として終わらせた方がマシだ。
「本当なのか…」
俺が迷っている様子から、今話していたことが事実だと言うことを読み取ったらしい。
どんな洞察力なんだよこいつ…ホストとかやったら速攻でトップ取れそうだよな。
「信じてくれたのか?こんな荒唐無稽な話を。」
「お前が嘘を吐いてないってことは信じる。気が触れてあっちの世界の住人になっていたのだとしたら、信じたところで意味は無いが…。」
ある意味あっちの世界の住人だったのかもしれないと、思わず吹き出してしまった。
話が長くなりそうだったので、とりあえず花グラに行って話すことになり、俺は十数年ぶりに思い出の場所を満喫することになった。
「懐かしいなぁ…」
「昨日もいたけどな、お前。」
「そうだろうな、卒業までずっとここでうだうだしてたもんな。」
「そう言われると凄い無駄な時間に思えてくるわ」
そんな軽口を叩いた後、これからのことを話した。
「とりあえず俺はこれからしばらく千花を探すことにするから、ここには来れない。誰かが何か言ってたら上手く言っておいてくれ。」
「わかった。何か手伝えることがあったら言ってくれ、出来る範囲で協力するよ。」
「お前らしいな、ありがとう。人手が欲しい時はお願いするよ」
タイムリープしているのかしていないのか、それを確かめる一番の方法は、未来で出逢う人間が、現時点で存在しているのかどうか。
そして現状、確実に所在がわかっているのは千花と恵だ。
そう、彼女たちは俺の一個年上で、2010年時、上京し、専門学校に通っているはずだ。
どちらかを見つけることが出来るか、もしくは存在する確証が得られたなら、タイムリープしていることになる。
そしたら俺は…
「それにしても、卒業してから一回も会ってないってウケるな。」
圭佑が言葉とは裏腹に少し寂しそうな調子で言った。
「お前が携帯を持ってなかったとはいえ、なんで俺はお前と連絡を取れるようにしなかったんだろう。」
真剣な顔で考え込む圭佑を見て、自分から圭佑に連絡を取ろうとしなかったことに罪悪感が生まれてしまった。
俺から携帯買ったぞと連絡をすれば、多分今も交友関係は続いていただろう。
それをしないまま今まできてしまったのは、どこまでまぁいいかと思っていたからだ。
こんなに俺のことを気にかけてくれる友達がいたのに、俺はバカと痛感する。
「俺の方こそごめん、携帯を買ったタイミングで連絡すれば良かったんだ。それをなんとなく先延ばしにして…気付いたら三十を過ぎてたよ…」
「案外そんなもんなのかもな、人生ってやつとかも。気付いたらジジイになってましたってか。」
「一瞬だったよ、三十歳なんて。ここでお前とダベってたのが昨日のように思える程に。」
「まぁ昨日はダベってたけどな。」
「そうだった。」
ひとしきり笑った後、まだ時間が早かったので俺は圭佑に別れを告げ、そのまま繁華街の方まで足を延ばすことにした。
千花と恵が通っていた専門学校は繁華街の駅の前にあったからだ。
服飾の専門学校の授業時間なんか知らないので、出てくる人に片っ端から千花のことを聞くしかない。
そうしてれば、もしかしたら千花に逢えるかもしれない。
それしか方法は無かった、そしてこれが最善だとも思った。
専門学校の前に着くと、まだ午後二時前だったので、誰も校舎から出てくる気配は無い。
とりあえず怪しまれないように、少し離れた場所から入り口を監視し始めた。
午後三時を過ぎると、ポツポツと中から人が出てき始めた。
俺は片っ端から香坂千花を知らないかと聞いて回った。
が、制服だったのがマズかったのか、変な目で見られ、誰もちゃんと答えてはくれなかった。
くそ…出直すか?
夕方四時を過ぎた辺りで、人の流れも少なくなってしまっていた。
まだ中にいるのか、もしかしたら今日は来てないのか。
五時まで待って、ダメだったら帰ろうと思ったその時だった。
「もしかして…優作くん?」
聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。
「千花!?」
と、思ったが、よく考えたらおかしい。
俺がタイムリープしているとして、この時代に千花が俺のことを知っているはずがない。
だとすると、この時代の知り合いがたまたま通りがかっただけか?
俺は声のする方へと視線を向ける。
「恵…?」
そこには、まだあどけなさが残るが、確かに恵と思われる女が立っていた。
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