第594話 敗者


「悪霊憑きよ、己が無力を思い知ったか?」


 ウェントリアスの容赦ない言葉に高杉は両手を挙げた。


「まいったまいった。ここの所負け続きだ。どんな世界でも、上には上がいるものだね」


 まいったと言いながらも高杉は笑っていた。口元の血は既に拭われている。すっきりした表情でこちらを見て、


「君に遭うまでは順風満帆だったんだけどね」

「知らん知らん」


 俺が悪いみたいに言うのはやめてもらいたい。


「調子に乗るから足元を掬われるのだ」

「敗者は素直に勝者の言葉を受け入れるとしようか」

「その舐めた態度は改まらんのか」

「性分なもので」

「……」

「……」

 無言で視線を交わすウェントリアスと高杉。

 もう一戦、なんてことにはならないでもらいたい。


 長い沈黙の果てにウェントリアスは、


「差し赦す」


 と言った。


「それってどういう意味だ?」

「余は帰る」


 俺の質問には答えてくれなかった。

 代わりに、


「あとで誰ぞ祠に寄越せ、ユーマよ」

「あ、うん。わかった」

「ユーマでも構わんが、そやつの相手があるのであろ?」


 ……要するに悪霊憑き高杉の滞在を赦してくれた、ということか。


「暇が出来たら顔を出せ。そやつは連れてくるなよ」

「嫌われたものだね」


 殺されずに済んでるんだから上出来だと思うぞ、高杉よ。

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