第582話 皇帝との問答


「引っ越し?」


 そんなことを言われても、


「俺はここを離れるつもりはないぞ」

「この宿があるからだろう? それくらいはわかっているよ」


 高杉はしたり顔で頷いた。


「僕が言っているのは君個人の話で葉ないのだ」

「意味がわからんのだが」

「君だけではなく、この宿もろとも帝国に引っ越してこないかね、と。そう言っているわけだよ」


 ……は?


 俺は言葉を失った。

 高杉はそんな俺を眺めてにやにやしている。


「そう驚くような話でもあるまい。君はこの建物ごと異世界こちらへやってきたのだろう? ならばもう一度移動すればいいだけの話では?」

「いやいや、そんなことできるわけが」

「無いと言えるほど試してみたのかい?」


 高杉はにやにや笑いを引っ込めた。睨んでいるわけでもないのに俺はひどく気圧されてしまった。


「世界を渡るよりは簡単だと思うがね、僕は。梅だって飛んで太宰府まで来るのだから」







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