第581話 皇帝の眼差し


「突出ね」


 元の世界あっちでは凡庸というか、平均レベルのビジネスホテルに過ぎない当館ではあるが、技術レベルが幕末より遥かずっと手前の異世界こちらでは突出していない方がおかしいというものだ。


「危険を感じる程だ」


 高杉の視線がチリチリと肌を刺す。


「こんな戦略拠点じみたものが国境そばの山中にあれば誰だって攻め落としたくなるとは思わないかい?」

「いや知らんがな」


 俺は高杉たちがそれこそ血と肉で築いた新時代の恩恵を存分に受けた世代の子孫だ。なんでもかんでも戦争に結び付けるような発想や思想は持ち合わせていない。


「当館は宿泊施設であって戦略拠点ではございません、お客様」


 この手のフレーズを口にするのも久しぶりだな。

 できれば言いたくないのだが。


「うん。そうだね。宿屋だね」


 高杉は首肯。

 ただし、目の剣呑な輝きは収まっていない。


「まあ、攻め落とすのも難儀ではあるし、壊してしまっては勿体ない。そもそも王国とは条約締結したばかり。というわけで」


 嫌な予感。

 こういう時の予感は当たる。


「帝国に引っ越してこないかね、悠馬ユーマ?」

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