第583話 皇帝の用件


「良い話、なんだろうな」

「当然だ。今よりも遥かにいい待遇を約束しよう」


 俺のぼやきのような問いかけ未満の呟きに、高杉は即答した。


「有難い申し出だけど、お断りさせてもらおう」

「おや残念だね」


 言葉とは裏腹にあっさりとした態度だった。まるで俺の返事をあらかじめ知っていたかのような。


「いやにあっさり引き下がるんだな」

「引き抜けないと思っているからこそ視察の約束を取り付けているんだよ。君の持っている技術の一端でも持ち帰ることができれば御の字だと思っているよ」

「……」

「面倒な奴だと思っているね」

「……思ってない」


 とも言いきれないが、わざわざ肯定してやる意味もない。


「顔に出やすいのは客商売としてどうなんだい?」

「ほっといてくれ」


 そんなに露骨に表情に出しているつもりはないのだが……。

 

「結局のところ、あんたの用件は視察なわけだ」

「まあ、そういうことだね」


 護衛もつけずに身軽なもんだと思う。もっとも高杉が護衛の必要を感じる状況がまずあり得ないし、そんな状況があったとしてその時に役に立つ人材がいるとも考えにくい。


「早速今日から、開始するのはどうだろうね?」

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