第579話 皇帝の移動速度


「それで?」


 俺は小さなテーブルを挟んで高杉に問うた。


「それで、とは? どういう意味だね?」

「何しに来たのか、って聞いてるんだ。視察にしては早すぎるだろ」


 俺が帰ってくるのとほぼ同時に来られても困る。


「ふむ。実際視察に来たのだがね。昨晩は客として泊まらせてもらったよ」

「……アンタ、帝国の方は大丈夫なのかよ」


 俺がわざわざ心配するようなことじゃないが、気になった。戦争の後始末や今後の大幅な方針転換についての調整が必須だったはずだ。


「僕が決めることは多くないからね。細かいところは下の者に任せてあるよ。上手くやってくれるはずだ」


 信用とも信頼とも違う。ただの事実を告げる口調。おおらかというよりは大雑把な処理だ。まあ、国のトップが細かい手管まで口出しするものではないか。高杉の出身地長州藩には「そうせい侯」という藩主もいたことだしな。

 

「それにしたって早すぎるだろ。俺だって帰って来たのは昨日だ」

「ははは」


 高杉は軽やかに笑った。


「僕は文字通り飛んできたからね。君よりはきっとずっと速い」


 ――飛梅とびうめか!

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