第518話 選択


「峻険な山岳地帯を進むにあたって風の精霊の機嫌を損ねるとひどい目に遭う――という話はご存知でしょうか?」


 エリザヴェートは膝をつき呼吸を荒くする高杉に向かって唐突に尋ねた。その間にも高杉は返事ができないくらいに顔色を悪くしていた。返事など最初ハナから期待していなかったらしくエリザヴェートは勝手に話を続ける。


「高地に住まう風の精霊は平野で私たちが普段接する風の精霊よりも気難しいのです。ちょっとしたことですぐに怒り、猛り、狂う。例えば今の貴方のように、頭痛やめまい。吐き気に疲労感。息切れもしてらっしゃるようですね」

「……っ!」


 次々に挙げられる症状。

 エリザヴェートが仕掛けたコトに俺はようやく思い至った。


 高山病。標高の高い山中で、気圧の低さから薄まった空気に身体が順応できずに機能不全を起こすというアレだ。高山病の解釈が俺とエリザヴェートで随分違うが、まあ世界が違うので常識も違う。


 ともあれエリザヴェートは魔剣アネモイで高杉の周囲の大気を調整コントロールしているようだった。できるかどうかは知らないが真空状態までもっていけるなら、いかに高杉であっても即死は免れまい。


「そのまま頭を垂れて負けを認めるのであれば、戦後交渉に移りましょう? もしまだ抗うというなら……、私は貴方を殺します」


 究極の選択だ。

 降伏か死か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る