第517話 王女


 勢いを増す雨はバネッサの魔剣ルサールカにより無数の矢弾と化した。逃げ場などどこにもない面制圧だ。高杉は頭上を不可視の手でガード。正面から押し寄せる死者の腕を剣だけで押し返す。


 そんな化物じみた高杉の動きも徐々に精彩を欠いてきた。

 攻撃を捌ききれず“飛梅”で回避する頻度が上がってきた。

 表情にも疲労の色が濃い。


「そろそろ王手チェックメイト……ですわね」

「ちょっ、おまっ」


 戦場に姿を現したのはエリザヴェートだった。風の魔剣アネモイを提げて、うすら寒くなるほどの殺意を漲らせている。


「王族が出てくるな。危ないだろ」

「とはいえユーマ様とバネッサさんだけでは決め手に欠けますでしょう?」


 にっこりと笑う。


「私が止めを刺して差し上げます」


 魔剣アネモイは風の魔剣だ。俺はエリザヴェートが魔剣で空を飛べることを知っている。逆に言えばその程度しか知らない。他にどんな使い方をするのか――


 シュトルムガルド王国の王女は魔剣を僅かに傾けた。

 アネモイの切っ先を向けられた瞬間、高杉が膝をついた。

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