【幕間】

兄妹は話し合う


「皇帝自ら使者として姿を見せるとは、身軽なのか馬鹿なのかわからないね」


 ハハハ、と笑う長兄とは対照的に末の妹は憤懣遣る方無い様子だった。


「どうしてその場で討ち取らなかったんですの?」


 次男である下の兄は妹の直截かつ無鉄砲な意見に頭痛を覚えた。

 諭すつもりで答えてやる。


「使者を斬ったなどと知れてみろ。王国の恥を世界に喧伝するようなものだぞ」

「相手が人であればそうでしょうけれど、帝国の使者など人でなしではありませんか!」


 末の妹の帝国憎しの思いは今にはじまったことではない。

 だが、実際に帝国軍と相対して、感情の制御が難しくなっているのではないか、と次男は感じていた。ちらり、と長兄を見やると、どうやら同じ思いらしかった。


「落ち着くんだエリザヴェート」

「……申し訳ございません。少々取り乱しましたわ。斬るなら戦場で、と肝に銘じておきます」


 妹が、王族が戦場に出ることについては長兄も次兄も反対ではあったが、そうも言っていられない台所事情があった。自国と帝国とでは戦力差がありすぎるのだ。僅かでも戦力が底上げできるのであれば、王族だろうがなんだろうが前線に出てもらうしかない。


「逆に斬られないように十分注意するんだよ、エリザヴェート」

「はい、最悪でも刺し違えてみせますから、ご安心くださいな」

「違う」

「うふふふふ。冗談ですわよ、冗談」


 冗談に聞こえないから困る兄二人であった。


「それにしても、兵を退いてやるから我らが英雄を寄越せとはね」

「突っぱねておいたが」

「正解だよ」


 長兄は弟の現場判断を指示しつつ、


「だが、最悪の場合には、我々も決断しなければいけないかもしれないね……」

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