第二十六章

第495話 散兵

 使者が去って数日後、帝国軍は侵攻を再開した。

 再開自体は織り込み済みだ。問題ない。


 問題なのは、


「帝国軍の動きが明らかに変わってきているな」

「ですね」


 イグナイトと指揮所から戦場を俯瞰する。

 帝国軍はこれまでのような力押しをやめていた。水の魔剣で半ば要塞と化した第一塹壕線にむやみやたらに突っ込んでくるようなことはしなくなっている。


 兵を細かく分割して小さな単位で動かしているのだ。第一塹壕線には少数の部隊で嫌がらせ程度の攻勢を継続。別の部隊を幾つも両翼から迂回機動させている。


「散兵戦術か」


 俺はうめいた。

 密集陣形と違って散兵戦術は高度な指揮能力を持つ部隊長を多く必要とする。そうでなければ部隊間の有機的な連携が取れないからだ。通信技術の無い異世界でそれを可能にする練度には舌を巻くほかない。


「おい、どうする?」


 イグナイトの表情は硬い。焦燥を表に出すことはないまでも、よくない展開であるとは思っているようだ。塹壕線を迂回されるのもマズいし、迂回している部隊を迎撃するために兵を向けるのも相手の思惑に乗っているようでよくない。


「また骸骨兵スケルトンウォリアーを出しま……すん」

「どっちだそれは」

「出しません」


 ここは骸骨兵じゃなく、俺が出るとしようか。心底嫌だけど。

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