第497話 性悪


 指揮官殿に説明を求められた以上は応じるしかない。


「現在帝国軍が仕掛けてきているのは細かく部隊を分けて運用する散兵戦術です。この戦術のメリットは戦場を広く活用できる点にあります。陣地に拠る我々と正面からぶつからずに隙間を見つけてこじ開けるのに最適です」


 密集陣形と違って攻撃を集中されて大損害、みたいなこともない。

 一見すると、いいことずくめのような戦術だ。


「ですが勿論、欠点もあります」

「ふむ」


 イグナイトは腕組みをして思案顔。

 散兵戦術の欠点について考えているようだ。


「この戦術は、部隊長の高い能力が必須になります。戦略に対する理解力、的確な判断力、他の部隊との有機的な連携。どれをとっても一朝一夕で身に着くものではありませんが、そういう指揮官を配置しなければただ単に雑兵を広範囲にバラ撒いただけになってしまいます」

「……なるほど。貴様のやりたいことがわかったぞ。タチの悪いことだな」

「御理解頂けて何よりです」


 イグナイトと俺は悪い笑みを交わし合った。

 頭の回転の速い上司は有難い。説明が省けるからな。


「貴様のような性悪が敵でなくてよかったとつくづく思わされるな」


 褒めてるつもりなのだろうか。まあ、人のいやがることをやるのが戦争だとすれば、性悪は確かに誉め言葉かもしれない。

 

「全ての邪悪を許容することで得られる勝利もあるんじゃないですかね」

「そういう戯言は勝ってから言え」

「ごもっともです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る