第493話 達人の業


 誰も高杉を見ていない。

 ということはおそらく天幕から出てすぐにナニかをしたんだろう。

 それがわかれば対策も打てるんだが……。


「……ノヴァ、ひとつ質問なんだが」

「はい。どうしましたか?」

「姿、あるいは気配を消す技術に心当たりはあるか?」


 手近にいた赤の勇者に尋ねてみる。

 ノヴァは少し考えてから、ふむ、と頷いた。


「たとえばこんなのはどうですか?」


 そう言って俺が出てきた天幕とは反対の方に目を遣った。俺もノヴァの見ている方に視線を向けた。


「ん?」


 特に何もない。兵たちが忙しなく動き回っているだけだ。「なんだ?」とノヴァに視線を戻すと、そこにノヴァの姿はなかった。どこに姿をくらましたんだと思っていたら、


「ここですよ」

「うわっ!?」


 背後から、悪戯を成功させた子供のように嬉しげなノヴァの声がして俺は滅茶苦茶驚いた。


「どうですか? 視線を誘導して死角に回り気配を断ったわけですけど」

「達人の技だな」


 理屈は分かるものの、俺に真似はできそうにない。だが高杉ならどうだろうか? 

 




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