第492話 消えた使者


「……無茶苦茶な男だったな」


 イグナイトが椅子に深く体を沈めながら呻いた。


「あれで使者のつもりとは。というか、皇帝が使者で持って来た内容が降伏勧告だと? ふざけおって」


 持って来た、ね。


「あ……!」


 俺はイグナイトの言葉であることに気付き、天幕の外に飛び出した。

 話を持って来た使者高杉はどうやってここへ来た? 塹壕線を全てすり抜けてどうやって? その答えは奴の帰路で確かめられるのではないか。

 そう思った。


 天幕から血相を変えて顔をだした俺に対して、王国兵たちが怪訝な目を向けてきた。彼らは天幕の周囲を固めていた兵だ。指揮を執っていたノヴァも似たような顔で俺を見ている。


「ユーマ殿、どうかされましたか?」

「どうもこうも……、今、高杉が、ええと帝国の使者が出てきただろ? そいつはどこに行った?」

「……帝国の使者ですか? 見ておりませんよ」

「……見てない?」


 ノヴァは真面目な奴だ。こんな時に嘘や冗談を口にするタイプではない。ということは本当に見ていないのだろう。だとすれば高杉は一体どこに消えたのか。

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