第491話 決裂

「おい貴様、どういう顔をしているのだ」


 イグナイトが呆れたような声を出した。

 俺はどんな顔をしてたんだろうか……。


「私が……んんっ……もとい、我が国が貴様を手放すわけがないだろうが」

「ですが、俺ひとり引き渡せば帝国は兵を退くんですよ?」

「馬鹿め」


 罵倒。


「目先の安全を買って将来に禍根を残せるものか。それに貴様にはまだまだ働いてもらわなければならん」


 いえあの俺はただの宿屋の主人なんですが。

 イグナイトの言葉を黙って聞いていた高杉は目を細めた。


「ふむ。乗ってこないか。ひとかどの人物だね、イグナイト君。みくびっていたよ。すまない。謝罪しよう」

「交渉の場でなんとも明け透けなことだ」

「決裂したのだからどうでもいいと思ってね」

「ならば去れ」

「そうだね。お暇させていただくとしようか」


 俺のことは最早俎上に載っておらず、話はどんどん進む。

 席を立ち天幕から去ろうとする高杉の背中に、イグナイトは告げる。


「次にはまみえるときは戦場だ」

「うん。戦場で」

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