第490話 ドナドナ


 俺を高杉に差し出せば停戦する。

 人ひとりで戦争が止まるのだ。破格の条件と言える。


 他人事なら喜んで受け入れるが、俺自身が対象なのでそう簡単な話じゃない。


「僕は彼に興味がある。彼が軍門にくだるのなら、シュトルムガルド王国から手を引いても構わない」

「手を引くとは今後金輪際我が国に対して侵略を試みない、ということか?」

「彼ひとりにそれほどの価値があるとでも言うのかい?」

「無いと思っているのなら、貴様の目は節穴だな。高杉とやら」

「いいだろう。約束しよう」


 気持ち悪いくらい評価されてるな俺。

 って、そうじゃない。

 勝手に話を進めるな!


 俺の内心を知ってか知らずかイグナイトがこちらを一瞥した。


「……だそうだが、どうする?」

「どうするって言われましても」

「冗談だ。答えは決まっている」


 おお、売られていく仔牛の気持ちがちょっとわかる。

 俺の脳内ではドナドナがリフレインしていた。

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