第489話 条件


 あくまでも挑戦的な高杉に対し、俺は全身の力を抜いた。

 脱力状態で高杉の圧を受け流す。


 誘いに乗ったら火傷では済まないだろう。

 相手は教科書に載るような人物なのだ。

 そして狂っている。


 ものごとを測るが俺のような凡人とは根本から違うのだ。


「やらない」


 俺は言った。


「何故?」


 高杉は問うた。


「あんたの力は底が知れない。この場で無策でやりあうのはリスクが高すぎる」

「りすく? 危険、という意味かな? 危険を避けていては大事は成せないよ、君」


 挑発には乗らない。


「大事を成すには小事から、と言います」

「……ふむ。道理だね。なかなか面白いな、君は」

 

 高杉は殺気のような圧を緩めた。


「イグナイト君」

「なんだろうか」

「ひとつ条件を呑んでくれれば停戦しても良い」


 は?

 いきなりなんだ? 停戦の条件?

 直後、高杉の提示した条件は俺の想像の埒外のものだった。

 高杉は俺をばちで指して、


「この男を僕にれ。それで兵を退こうじゃないか」


 意図的に脱力していた全身が一瞬で強張った。

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