第488話 狂気
高杉もミラベルもその精神は狂気に染め上げられている。
ただ狂っているだけではない。
困ったことにまともなままで狂っているのだ。
「無傷の勝利。大変魅力的な言葉だね。僕もできることなら一度は経験してみたいものだが、戦というのはそんなに甘いものではない。イグナイト君はその点、理解しているかい?」
「何が言いたい」
「圧倒的優位にある王国軍にも穴はあるということだよ」
「……穴?」
「それは僕だ」
高杉はからかうように三味線をかきならした。
「僕が無傷で誰にも悟られることなくこの場に辿りつけているという事実が、君らにも穴はあるのだと指し示しているとは思わないかね? ん?」
「……」
イグナイトは押し黙った。
高杉の言う通りだったからだ。
「蟻の一穴で堤が崩壊することもある」
この場で高杉を討ち取れば問題解決できるが流石にそれは短絡的すぎ――
「やってみるかい?」
高杉は、俺の考えを見透かしたかのようなタイミングで涼しげに笑った。自分の命を無造作に晒す態度に俺は気後れしてしまう。死を超克しているのか、その恐怖を飼い慣らしているのか、何にせよ俺には持ちえない狂気が高杉からは溢れている。
「それが一番手っ取り早い。僕が君の立場なら間違いなく検討するし、他の案がなければ実行するかもしれない」
高杉は「どうする?」と言わんばかり挑戦的な表情を向けてくる。
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