第481話 帝国からの使者


 帝国の使者は豪気なことにたったひとりで王国軍の陣地にやってきた。

 しかもこちらに全く気取けどられることなく。


 戒厳下にある塹壕線を含む複数の警戒ラインを一体どうやって潜り抜けてきたのか見当もつかない。それこそエリザヴェートのように空でも飛んでくるくらいしか方法はないはず。


 問題の使者は今、大慌てでしつらえた天幕に通されている。

 俺は使者と顔を合わせる前に責任者と打ち合わせだ。


「イグナイト殿下、どうされますか?」

「どうもこうもない。相手は帝国の使者だ。面会を求められているのだから応じないわけにもいくまい」


 得体の知れない相手だ。なるべく会わせたくはないが、


「イグナイト殿下も同席なさるんです、よね?」

「危険か?」

「使者が暗殺者、ということもないではないですからね」

「私を殺したところで兄上がいるからな。王国は揺らがん」

「肝の太いことで」


 俺が賞賛すると、イグナイトは鼻を鳴らした。照れてるんだろうか。


「貴様は、使者が何の話を持ってきたと考える?」

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