第二十五章

第480話 有利な膠着

 一方的に散々殴り倒したおかげで、ようやく帝国軍は進行を止めた。

 お見合い。

 膠着。

 望み通りの展開だ。


 膠着が長引けば長引くほど王国は有利に、帝国は不利になる。

 理由は幾つかあるが、大きくふたつ。


 ひとつは、こちらは一方的に、好きなタイミングで攻撃できる選択肢オプショインを持っているということ。ノヴァとエリザヴェートの空爆。帝国軍はいつ来るともしれない攻撃に怯え警戒し続けなければならない。そんな状況で士気を維持するにも苦労するはずだ。


 もうひとつは、補給。帝国軍は見ての通りの大軍だ。策源地から遠く離れたこの王国の地に輜重品しちょうひん――糧食やら武器やらなにやら――を運搬するのは莫大な労力がかかるだろう。人はただそこにいるだけでコストがかかるのだ。帝国の軍勢を支えるための運搬コストなど、考えるのも嫌になるレベルだろう。


 対してこちらは王国のほぼほぼ国境線で対峙しているわけで、補給にかかるコストは段違いに安い。軍の規模も帝国に比べれば小さなものだ。


 要するに長引けば帝国は勝手に音を上げる。

 冬にでもなれば撤退か凍死を選ばざるを得なくなる。


 だから、


「帝国軍から使者が来ました――!」


 そんな報告を受けた時に、「お、和睦かな」と安易に考えてしまったのだった。

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