第422話 降り注ぐ霰から身を隠したい


 壕。塹壕。英語で言うとTrenchトレンチ、だったか。英語にする意味はないが。

 

 俺の提案は塹壕線の構築だ。最終防衛ラインである城壁の前に何本も塹壕を用意する。要はのだ。後退する余地があるのとないのとでは守る側の気分が違う。はずだ。たぶん。知らんけど。


「銃兵の射線・圧力から身を隠すための壕を用意するのです、殿下。それによって死傷率の低減を図ります。ついでに隙を見て反撃もできます。壕の中から。銃があれば、銃を突き出すだけで。身を晒さずに」

「卑怯な策だな。堂々たる騎士の戦ではない」


 数々の利点を「卑怯」のひとことで切って捨てるなよ……。騎士道精神、敢闘賞では腹は膨れないし、人も国も守れないだろうに。


「卑怯? これは当然の戦術ですよ。いたずらに兵を死なせるよりはずっとマシです」

「……っ」


 イグナイトが押し黙ったので、俺は言葉を継いだ。


「正々堂々一騎打ち、というのは双方が合意の上で成り立つものです。帝国軍にはそんなつもりは更々ないでしょう。イグナイト殿下は騎士に堂々と死ねと、兵に陣地を固持して死ねと仰るのですか? よりよい生存方法戦術があるのに?」

「……貴様くらいだ。私に面と向かってそんな物言いをするのは」


 言うだけならタダだ。言わねば損だ。人の命がかかっているのだから。


「提案を聞いてくださる、とのことでしたので」

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