第421話 血の雨を降らせないために

 イグナイトの妄言はさておき、一旦不確定要素は棚上げしよう。港やムラノヴォルタから攻められることは今は考慮しないで目の前の課題に集中すべきだ。まずは防衛線の構築だが――


「どうですか、進捗状況は」

「見ての通りだ。堅牢な陣を敷いて帝国軍を迎え撃つ」


 平野を横断する土塁どるい。これがやがて壁になるのだろうことは理解できた。と同時にこれは不味い、とも思うのだ。

 

「……殿下、意見具申よろしいですか?」

からの意見ならばいくらでも聞こう」

「殿下もあまり冗談がお上手でないですな」


 ちくりとやり返して、俺は咳払い。


「強固な城壁を築くこと自体は構いません。ですが、これ一本ではいけません」

「む」


 城壁だけでは、これが抜かれたら全て終わってしまう。それは実際的にも精神的にも非常によろしくない。


「城壁を最終防衛線として、その前に何本かほりを掘ってください」

「壕……?」

「そう、壕です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る