第420話 荒天の戦場

 ムラノヴォルタが侵略されれば俺が戦う? なるほど確かにあの町が潰されれば俺のホテルは孤立してしまうだろう。帝国軍の包囲を忌避するならば、ムラノヴォルタと協働して戦争に臨むのが最善手と言えなくもない。


「いやいや殿下。私はただの宿屋の主人ですよ。戦争などと」

「冗談は下手らしいな」


 イグナイトが珍しく俺に笑みを見せた。ひょっとしてはじめてじゃないか?


「貴様が宿屋の主人であることこそ何かの間違いだろう」

「殿下?」

「貴様は戦争の申し子だ。いや、戦争そのものと言ってもいい」

「もしもし?」

「だが幸いにも貴様は我々の味方だ。そうだろう?」

「あー、はい。それはそうですね」


 仰る通り俺が王国側であることは間違いない。だからといって戦争イコール俺と言われると違和感しかない。


「誰が戦争そのものですか……」

「貴様だ」

「うーん。自己評価と他者評価は一致しないと言いますが、これほどとは」


 イグナイトからすれば俺がムラノヴォルタを守るために戦うことは、俺こそが戦争であるというのと同じく、自明のことであるらしかった。


「貴様は我が国最大の兵力だ。精々付き合って貰うぞ」

「いつまでですか?」

「……王国が帝国を退けるか、滅亡ほろぶまでだ」


 滅んでしまうと困るんだよなあ、俺は。

 戦って勝つしかないのか。



 ――本当に?

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