第二十一章

第408話 空は蒼く、風は強く


 俺はクラリッサから入手した情報を忘れないようにしっかり頭に刻みつけて、玄関から表に出た。従業員が玄関――お客様用の出入口だ――を使うのはどうかと自分でも思ってしまうが、なんだかんだチェックアウト時間は過ぎてしまっているのでセーフとしてしまいたい。


 天気は快晴。真っ蒼な空の端に雲を追いやっていく風は、山の斜面にも吹いていて、軽やかに山肌を撫で、木々を揺らしている。


「悩んでるのが馬鹿らしくなる天気だな……」


 とは思うが、考えるのを放棄したら負けだとも思う。

 実際、帝国相手に無策で挑むわけにはいかない。


「うーむ」


 考えながら、歩く。

 ホテルから伸びた道。

 不慣れな土木工事をして造った道だ。

 そこを歩く。


 ――あの頃からは、状況は随分と変わってしまっている。


 俺が望んだようにはさっぱりいっていない。

 異世界に転生したのはホテル経営をイチからやり直すためだったはずなのだが……。


 最近は戦争紛いのことしかやっていないとは、苦笑するしかない。


「浮かぬ顔じゃのう、ユーマよ」

「ウェントリアス……」


 気が付くと、俺は“風”の祀られている祠まで辿り着いていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る