第363話 国家安寧より自分が第一

 良い国策でも献じたりするとでも思ってたんだろうか、この王子殿下達は。

 

「流石に宿いえを留守にし過ぎたんでな。俺は俺の守るべきものを守りたい」

「国家の大事より自分の宿か貴様」


 とはイグナイトの言。

 そりゃそうだ。

 国家安寧も大事だろうが、より高い優先度のものがある。

 俺にとっては俺の宿ホテルがそうだ。


 そもそも国なんて得体の知れないモノより、自分の生活が第一という人間が殆どだろう、なんて思ったりもする。口にはしないが。


「戻って来ないとは言ってませんよ、イグナイト殿下。それに俺の宿は帝国との国境線に近い。情報収集と防備を固めるのを兼ねて、一度帰っておきたいのですよ」


 俺のもっともらしい理由付けに――実際はいい加減が心配なだけだが――、ヴィクトールは成程、と小さく呟き頷いた。


「いいよ。わかった」

「……そういうことなら仕方あるまい」


 イグナイトは不承不承といった体だったが追認してくれた。


「なるべく早く帰ってきてくれるかい、我が英雄」

「なるべく、ね。了解だ。そっちこそ俺が戻るまでに魔剣の使い手を揃えておいてくれよ」


 ――さて、これからどうするか。

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