第362話 ふたつめは、自分自身のためのこと

 俺とイグナイトのやり取りを聞いていたヴィクトールはにこりと笑った。

 目は微塵も笑っていなかったが。


「我が英雄、ふたつあると言っていたひとつめの話はよくわかったよ」

「わかってもらえてなによりだ」

「魔剣の使い手については、イグナイトが万事よろしく取り計らうことを約束しよう」


 おっと、弟に丸投げか。酷い奴だ。

 イグナイトも「えっ」という顔をしていた。

 俺としては誰がやってくれても構わんのでスルーした。

 ヴィクトールは笑っていない双眸そうぼうでこちらを見やり、


「我が英雄はふたつあると言ったね。もうひとつについて聞かせえもらえるかい?」

「それなんだがな――、一旦帰らせてもらう」

「「はっ?」」


 全く同じ表情で同じリアクション。

 ちょっと笑いそうになってしまう俺だった。笑いはどうにか堪えたが。

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