第361話 妥協点を探る、間違いを糺す――これも俺の仕事じゃあない

 要はイグナイトの意向を汲んでやればいいだけの話だ。


「――ならば、勇者の称号を授けるんじゃあなくて、使とでも呼べばいいじゃないですか」


 呼び方なんてどうでもいいのだ。

 今は一にも二にも戦力が必要だ。


「それに、きちんと俸給ほうきゅうを出せば皆喜んで戦ってくれますって」


 俺の底言葉にイグナイトはフン、と鼻を鳴らした。


「名より実か。いかにも平民の考えだな」


 悪態をかないと生きていけない呪いでもかかってるのだろうかこの男は。


「違いますよ」


 間違いをただすのも家臣の務めか。

 やれやれ。俺は家臣ではないんだが。


「たとえ誰が魔剣に選ばれても。この国の安寧のために力を尽くすと、俺は思いますよ。無給で人を使うのは俺の好みじゃあない、ってだけのことです」


 タダ働きはよくない。

 本当によくない。

 やりがい搾取なんてとんでもない。

 そんな俺の思いを知ってか知らずか、イグナイトは重く頷いてくれた。


「……わかった。貴様の意見を採用する」

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